道連れ岬 1/3

深夜十一時。

 

僕とSとKの三人はその夜、

 

地元では有名な

とある自殺スポットに来ていた。

 

僕らの住む町から二時間ほど

車を走らせると太平洋に出る。

 

そこから海岸沿いの道を少し走ると、

 

ちょうどカーブのところで

ガードレールが途切れていて、

 

崖が海に向かって、ぐんと

せり出している場所がある。

 

崖から海面までの高さは、

素人目で目測して五十メートルくらい。

 

ここが問題のスポットだ。

 

もしもあそこから海に飛び込めば、

 

下にある岩礁にかなりの確立で

体を打ち付けて、

 

すぐに天国に向けて、

Uターン出来るだろう。

 

そしてここは、

 

実際に度々Uターンラッシュが

起きる場所でもあるらしい。

 

『道連れ岬』

 

それがこの崖に付けられた

名前だった。

 

僕らは近くのトイレと駐車場のある

休憩箇所に車を停め、

 

歩いてその場所に向かった。

 

「そういやさ。何でここ『道連れ岬』って

言うんかな?」

 

僕は崖までのちょっとした

上り坂を歩きながら、

 

今日ここに僕とSを連れて来た

張本人であるKに訊いてみた。

 

K「シラネ」

 

Kはそう言って、うははと笑う。

 

Sは、その隣で

あくびをかみ殺していた。

 

K「まあ、でもな。噂だけどよ。

ここに来ると、なんか無性に

死にたくなるらしいぜ?」

 

「どういうこと?」

 

K「んー、

俺が聞いた話の一つにはさ。

 

前に、俺たちみたいに三人で、

ここに見物しに来た奴らがいたらしい。

 

で、そいつらの中で一人が

突然変になって、

 

崖から飛ぼうとしたんだとよ。

 

で、それを止めようとしたもう一人も、

巻き添え食らって落ちちまった」

 

「ふーん」

 

S「・・・巻き込まれた奴は

いい迷惑だな」

 

Sがかみ殺し損ねたあくびと一緒に

小さくつぶやく。

 

眠いのだろう。

 

ちなみに、

ここまで運転してきたのはSだ。

 

そういうスポットに行く時はいつも、

 

オカルトマニアのKが提案し、

僕が賛同し、

 

Sが足に使われるのだった。

 

K「いや、実際いい迷惑どころじゃ

ねーんだよな。実際死んだの、

その止めに入った奴一人らしいし」

 

「はい?」

 

と言ったのは僕だ。

 

だってそれは理不尽と

感じるしかない。

 

飛ぼうとした人じゃなくて、

止めに入った人だけ死ぬなんて。

 

K「詳しいことはそんなしらねえけどさ。

多いらしいぜ、同じような事件」

 

「ふーん」

 

と僕。

 

S「・・・その同じような事件ってのは、

どこまで同じような事件なんだ?」

 

興味が沸いたのか、

Sが訊く。

 

K「うはは、シラネ。

あんま詳しく訊かなかったからなあ・・・

お、そこだよ」

 

話しているうちに、

 

僕らはカーブのガードレールが

途切れている箇所まで来ていた。

 

そこから先は、

 

僕らの乗って来た

軽自動車が横に二台、

 

ギリギリ停まれる程の

スペースしかない。

 

近くに外灯があったけれど、

電球が切れかけているのか、

 

中途半端な光量が、

逆に不気味さを演出していた。

 

ざん、と下の方で

波が岩を打つ音が聞こえる。

 

S「誰もいねーな」

 

Sは心底つまらなそうだ。

 

K「ま、他の噂だと、

崖の下に何人も人が見えるだとか、

手が伸びてくるだとか・・・」

 

と言いながら、

Kがガードレールを跨ぐ。

 

ガードレールの向こう側は

安全ロープなども一切張っておらず、

 

確かに『どうぞお飛びください』、

といった場所ではある。

 

「ちょ、おい。K、危ないって。

いきなり飛びたくなったらどうするんだよ」

 

僕の忠告を無視し、

Kは崖の縁に立って下を覗き込む。

 

K「おー、すげーすげー」

 

この野郎め、

そのまま落ちてしまえばいいのに。

 

S「死にたくなったら一人で飛べよ」

 

Sはそう言って、

 

崖に背を向ける形で

ガードレールに腰掛け、

 

車から持って来たジュースの入った

ペットボトルに口をつけた。

 

僕はというと、

どうしようかと迷った挙句、

 

一応ガードレールを乗り越えて、

何かあった時にすぐ動けるよう待機しておく。

 

しばらくして、

 

じろじろと海を覗き込んでいたKが

立ち上がった。

 

K「うーん、何もねーなー。

なあ、ところでお前らさ、今、

死にたくなったりしてるか?」

 

どんな質問だよと思いながらも、

僕は「別に」と首を横に振る。

 

SはKに背を向けたままで、

「死ぬほど帰りてえ」と言った。

 

Kが自分の右手にしている腕時計で

時間を確認する。

 

K「えーでもよー。ここまで来て

何も起こらないまま帰るってのもなー。

・・・なあ、もうちょっと粘ってみようぜ」

 

S「一人で粘っとけよ」

 

K「冷たいこと言うなよSー。

俺とお前の仲じゃんかー。

ほら、暇なら星でも見てろよ」

 

S「死にたくなれ」

 

漫才コンビは今日も冴えている。

 

と言うわけで、

僕らは二十分という条件付きで、

 

もう少しだけここで起きるかもしれない

『何か』を待つことになった。

 

(続く)道連れ岬 2/3へ

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