道連れ岬 2/3

それから僕ら三人は並んで

ガードレールに腰掛け、

 

崖側に足を伸ばして座っていた。

 

僕はボケーっと空を見上げ、

Sは腕を組んで目を瞑り、

Kはせわしなく周りを見回している。

 

K「やべ・・・、

俺ちょっくらトイレ行ってくるわ」

 

十分くらい経った時、

Kがそう言って立ち上がり、

 

車を停めた休憩所に向かって

歩いて行った。

 

隣を見ると、

 

Sは先ほどから目を閉じたまま

ピクリとも動かない。

 

僕はまた空を見上げた。

 

先ほどKが言っていた、

この崖にまつわる話をふと思い出す。

 

この崖に来ると無性に死にたくなる、

と言うのは本当だろうか。

 

今のところ自分の精神に変わりはない。

 

S「『道連れ岬』って言うんだろ・・・ここ」

 

突然隣から声がしたので、

 

Sの声だとはわかっていても僕は驚いて、

実際腰が浮いた。

 

「何?いきなりどうしたん?」

 

S「いや、ちょっとな」

 

近くにある外灯の光が、

Sの表情を僅かに照らす。

 

Sは未だ目を開いてなかった。

 

S「さっきKが言ってたろ。

 

一人が飛ぼうとして、二人が落ちて、

一人が死んで・・・、

 

なんかしっくりこなくてな。

考えてた」

 

「で、分かった?」

 

S「さあ、分からん。

ただの尾ひれのついた噂話か・・・。

 

そもそも、

 

全部が超常現象の仕業っつーなら、

俺が考えなくとも良いんだがな」

 

「うん」

 

Sが何に引っかかっているのか

分からなかったので、

 

適当に返事をする。

 

Sはそれ以降、

何も言わなくなった。

 

本当に眠ってしまったのかも知れない。

 

しばらく経って、

誰かの足音に僕は振り返った。

 

Kだ。

 

Kが坂の下からこちらに

歩いて来ていた。

 

大分長いトイレだったような気がする。

 

僕はKが来たら『もうそろそろ帰ろう?』 と、

提案する気でいた。

 

しかし、歩いて来るKの様子に、

僕は、おや?、と思う。

 

Kはふらふらと、

おぼつかない足取りだった。

 

どことなく様子がおかしい。

僕は立ち上がった。

 

「おーい、K、どうした?」

 

僕の声にもKは反応しない。

 

俯いて、左右に揺れながら歩いて来る。

 

「お、おい・・・」

 

Kは僕らのそばまで来ると、

 

黙ってガードレールを跨ぎ、

僕とSの横を通り過ぎた。

 

表情はうつろで、

その目は前しか見ていない。

 

三角定規の形をした崖の先端。

そこから先は何もない。

 

Kは振り向かない。

悪ふざけをしているのか。

 

Kの背中。

崖の先に続く暗闇。海。

 

何かがおかしい。

 

その瞬間、

体中から脂汗が吹き出た。

 

「おいKっ!」

 

僕はKを引き戻そうと手を伸ばした。

 

けれど、Kに近寄ろうとした僕の肩を、

誰かが強く掴んだ。

 

振り返ると、Sだった。

 

S「やめろ」

 

Sの声は冷静だった。

 

「でもKが!」

 

S「あれはKじゃない」

 

「・・・え?」

 

Sの言葉に、僕は崖の先端に立ち、

こちらに背を向けている人物を見つめた。

 

今は後姿だが、

あれはどう見たってKだ。

 

先まで一緒にいたKだ。

 

S「今は何時だ?」

 

Sが僕に向かって言う。

その額にも脂汗が浮かんでいた。

 

S「答えろ。今は何時だ?」

 

Sは真剣な表情だった。

 

僕はワケが分からなかったが、

自分の腕時計を見て、

 

「・・・十一時、四十分」

 

と言った。

 

S「だろう。だったら、あれはKじゃない」

 

僕はSが何を言っているのか分からず、

 

かといって僕の肩を掴むSの腕を

振りほどくことも出来ず、

 

ただ、目の前のKらしき人間を凝視する。

 

あれはKじゃない?

じゃあ、誰だというのだ?

時間がどうした?

 

あいつがKだと思ったから

伸ばした僕の腕。

 

開いていた掌。

 

迷いと混乱と疑心によって、

僕は一旦、腕を下ろした。

 

その時、目の前のそいつが振り向いた。

首だけで、180度ぐるりと。

 

そいつは笑っていた。 

 

顔の中で頬だけが歪んだ、

気持ち悪い笑み。

 

Kの顔で。

 

その笑みで僕も分かった。

あれはKじゃない。

 

そいつは僕とSに

気持ち悪い笑みを見せると、

 

そのまま首だけ振り向いたままの

姿勢で・・・飛んだ。

 

「あ、」

 

僕は思わず口に出していた。

 

頬だけで笑いながら、

 

そいつはあっという間に

僕らの視界から消えた。

 

何かが水面に落ちる音はしなかった。

 

「・・・飛んだ」

 

僕はしばらく唖然としていた。

口も開きっぱなしだったと思う。

 

突っ立ったままの僕の横を抜けて、

Sが数十メートル下の海を覗き込んだ。

 

S「何もいねえな。浮かんでも来ない」

 

僕は何も返せない。

Sはそんな僕の横をまた通り過ぎて。

 

S「おい、行くぞ。

・・・Kは大丈夫だ」

 

そう言ってガードレールを跨ぎ、

 

車を停めた休憩所への下り坂を

早足で降り始めた。

 

僕もそこでようやく我に帰り、

 

崖の下を覗くかSに付いて行くか

迷った挙句、

 

急いでSの後を追った。

 

「S、S!警察は?」

 

S「まだいい」

 

Sは休憩箇所まで降りると、

 

車を通り過ぎ、

迷うことなく男子トイレに入った。

 

僕も続く。

 

(続く)道連れ岬 3/3へ

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