通勤途中の駅ホームで奇妙な体験

毎朝、俺はいつもC線のH駅から

S駅まで電車で通勤する。

 

途中、M駅で特快に乗り換えて

行くんだけど、

 

その日は少し寝坊して、

1本遅い電車になってしまった。

 

1本ずれると当然、

 

M駅で特快に乗れなくなり

時間がかかる。

 

乗り合わせの電車も遅れる。

 

仕方ないので駅の端へ行き、

電車が来るのを待っていた。

 

そこに中学生の女の子が

同じように待っていた。

 

俺が通勤用の小説を読もうと

カバンを漁っていると、

 

目の前の子がふらふら・・・と、

線路側へ寄っていく。

 

すでにホームには特快通過の

アナウンスも鳴っているし、

 

遠くだが電車が来るのも見える。

 

反射的に「おいおい!」と思って

彼女の手を掴んだら、

 

物凄い力で体ごと

引きずられ始めた。

 

俺は弓道をやっているから、

 

腕力と下半身の安定には

自信があったんだけど、

 

それでも引きずられてしまう。

 

ヤバイ、何かに捕まったか、

と思って、

 

声を出して助けを呼ぼうにも、

声が出ない。

 

そうこうしているうちに

電車は目の前、

 

思いっきり警笛も鳴らされている。

 

が、彼女の体はすでに半分ほど

ホームから出ている。

 

今、手を離せば・・・と思うと、

離せなかった。

 

もう駄目だ・・・。

 

そう思ったら、誰かが肩を掴んで

思いっきり引いてくれた。

 

勢いよくホーム側に倒れ込む

俺たち。

 

幾人かの悲鳴とともに、

急ブレーキをかけて電車は止まった。

 

でも、ここからが不可解なんだ。

 

みんな、「やっちまった・・・」

という顔。

 

運転手も青ざめて降りて来た。

 

俺は彼女を助けられて良かった

と思ってたんだが、

 

どうやら様子が変だ。

 

運転手や駅員、他の客が

ホームの下を眺めている。

 

そのうち、駅員が倒れている

俺たちの方にやって来て、

 

「もう1名の方の特徴は分かりますか?」

 

って聞くんだ。

 

俺は訳が分からないって

感じだったんだが、

 

俺の肩を掴んで引いてくれた

年配の男の人が、

 

「ショートカットでメガネを掛けていて、

紺色の服の女性です」

 

って言うんだ。

 

俺にはそんなものも

見えなかった。

 

中学生の彼女の右手を

掴んでいたが、

 

左手にはカバンが

握られていただけだったはず。

 

そんな事を話していると、

 

「カバンにしがみ付いている人を線路から

引き上げようとしていたんじゃないのか!?」

 

と言われた。

 

結局、散々探したのに、

線路には何も残っていなかった。

 

電車もそのまま発車してしまった。

 

中学生の彼女は、

 

駅の改札を抜けてからの事を

全然覚えていない。

 

警察でも同じように話して、

結局お咎め無しになった。

 

3年ほど前の忘れらない出来事です。

 

(終)

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