酒屋のじいさんが帰ってきた

椅子

 

これは、ついさっきあった不思議な出来事。

 

近所の米屋の店先で、店の前に出した長椅子に座っていた米屋のじいさんが、ガックリと肩を落としたような感じでタバコを吸っていた。

 

すると、「ずいぶんとしょぼくれてんなぁー!ボケが始まっちまったかぁ?あぁ?」と大声が聞こえた。

 

見ると、米屋の向かいの酒屋のじいさん。

 

見慣れた姿で腰に手を当てて、米屋に向いて立っていた。

 

そういえばこの二人、耳が遠いんだか地声がデカいんだか、仲が良いんだか悪いんだか、道を挟んでよく大声で話していた。

 

べらんめぇ調の酒屋のじいさんの大声も懐かしい。

 

そんなことを考えていると、ふと気がついた。

 

そうだ、酒屋のじいさん、一昨年に亡くなったんだっけ。

 

だから米屋のじいさんもしょぼくれて…。

 

酒屋のじいさんがこの世の者でないことに気がついたと同時に、じいさんはこちらを向いて、「あいつに言ってやってくれ」といった感じのジェスチャーをしながら消えていった。

 

私に、どう言えというのだろう?

 

それより、米屋のじいさんに見えるように出てこいよ。

 

(終)

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