写真 2/2

写真

 

師匠は黙って2枚の写真を差し出した。

 

俺はビクビクしながら受け取る。

 

「うわ!」と思わず声を上げて、

目を背けた。

 

ちらっと見ただけでよくわからなかったが、

猛烈にヤバイ気がする。

 

「別々の場所で撮られた写真に、

同じものが写ってるんだよ。

 

えーっと、確か・・・」

 

師匠はリストのようなものをめくる。

 

「あった。

 

右側が千葉の浦安で撮られた、

ネズミの国での家族旅行写真。

 

もうひとつが、

 

広島の福山で撮られた、

街角の風景写真」

 

ちなみに、

 

写真に関する情報がついてた方が

高い値がつくと付け加えた。

 

「もちろん撮った人も別々。

 

4年前と6年前。

 

たまたま同じ業者に流れただけで、

背後に共通項はない。と思う」

 

俺は興味に駆られて、

薄目を開けようとした。

 

その時、

 

師匠が「待った」と言って俺を制し、

窓の方へ近づいていった。

 

「夜になった」

 

また難しい顔をして言う。

 

なにを言い出したのかと、

ドキドキして写真を伏せた。

 

師匠が窓のカーテンをずらすと、

外は日が完全に暮れていた。

 

確か来たのは5時くらいだから、

 

そろそろ暗くなってきても

おかしくないよなあ。

 

と思いながら腕時計を見る。

 

短針は『9』を指していた。

 

え?!そんなに経ってんの?

と驚いていると、

 

師匠が唇を噛んで、

 

「まずいなぁ。実にまずい」

 

と呟き、

 

「何時くらいだと思ってた?」

 

と聞いてくる。

 

「6時半くらいかな、と」

 

確かに時間が過ぎるのが

早すぎる気もするが、

 

それだけ写真を見るのに

集中していただけとも思える。

 

「僕は正午だ」

 

それはありえないだろ!

 

しかし、

師匠の目は笑っていない。

 

何かに体内時計を狂わされたとでも

言うのだろうか。

 

師匠は、

 

「今日はここまでにしようか」

 

と言って肩を竦めた。

 

俺もなんだかよくわからないけれど、

自分の家に帰りたかった。

 

部屋中に散らばった写真を片付けようとして、

さっき伏せた2枚の写真の前で手が止まる。

 

『同じものが写っている』

 

と言った師匠の言葉も気になるが、

 

『見ない方がいい』

 

という第六感が働く。

 

その時、

 

師匠が妙に嬉しそうな顔をして

床の上を見回した。

 

「人間には無意識下の

自己防衛本能ってヤツがあるんだなあ、

 

と実感するよ」

 

なにを言い出したんだろう。

 

「動物園ってなにするところ?」

 

話が飛びすぎで意味がわからない。

 

「動物を見に行くところだと思いますけど」

 

「たしかに、

僕らはお金を払って動物園に行き、

 

それぞれの檻の前に立って

中の動物を見て歩く。

 

しかし、

動物からするとどうだ。

 

檻の中にいるだけで、

色とりどりの服を着たサルたちが、

 

頼みもしないのに次々と

姿を見せに来る」

 

動物を心霊写真に置き換えれば

いいのだろうか。

 

なんとなく、

言いたいことが分かってきた。

 

床を見ながら、

師匠は独り言のように呟いた。

 

「闇を覗く者は、

 

等しく闇に覗かれることを

畏れなくてはならない」

 

「ニーチェですか?」

 

「いや、僕だ」

 

師匠はどこまで本気かわからない顔で、

床に散らばった写真を指差した。

 

「どうして伏せたんだ」

 

その言葉を聞いた時、

心臓がドクンと鳴った。

 

さっきの2枚だけではない。

 

無数の写真の中で、

何枚かの写真が伏せられている。

 

全く意識はしてなかった。

 

全く意識はしてなかったのだ。

 

写真はすべて表向いていたはずなのに。

 

僕が伏せたんだろうか。

 

寒気がして全身が震えた。

 

「怪物を倒そうとするものは、

 

自らが怪物になることを

畏れなくてはならない」

 

やっぱりニーチェじゃないですか。

 

俺はそう言う気力もなく、

 

怪物を倒すどころか、

写真をめくる勇気もなかった。

 

(終)

次の話・・・「葬祭 1/3

原作者ウニさんのページ(pixiv)

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