うちの学校だけにあった七不思議 2/2

非常階段

 

雑談に花を咲かせていた俺たちだったが、

一人、また一人と友達が帰っていき、

 

ついには俺と二人きりになった

最後の一人までが帰ると言い出した。

 

気づけばもう空全体が、

濃い茜色に染まっていた。

 

見下ろす学校の前の道の街灯も

点灯し始めている。

 

俺は一人になっても

その場所で時間を潰していた。

 

明るいうちに帰るのは、

何故か損をしている気分になったからだ。

 

せめてもうちょっと暗くなってから帰ろう、

 

そう思って俺は夕焼けの空の下街の

風景を眺めていた。

 

学校からいつも聞こえていた喧騒は、

全く無くなっていた。

 

どの教室の電気も消え、

 

聞こえるのは時々近くを通る、

車のエンジン音だけ。

 

だからというか、静寂の中、

 

俺は不意にその『手すり女』の話を

思い出してしまっていた。

 

その少女は噂の通りだったとしたら、

死んだその瞬間までここにいたはずだ。

 

四階の踊り場、ここに・・・。

 

いくら小学生といっても、

 

ここから飛び降りたらどうなるかは

想像がつく。

 

幽霊の類を信じないといっても、

やはり孤独になると不安感を覚えるもので、

 

俺は、その少女の体が

叩きつけられたであろう地面を、

 

手すりから見下ろした。

 

鳥肌が立った。

 

下に少女が立っているのが見えた。

 

赤い服を着た少女が、

 

地上からこちらを見上げる形で

立っていたのだ。

 

たまたま下校しないで残っていた生徒が、

たまたま人の全く通らない校舎裏に現れて、

 

たまたま俺を見上げていたという可能性も

否定出来ないわけではなかった。

 

しかし、

校舎に残っている生徒は皆無に近く、

 

こんな時間に校舎裏に訪れる生徒も

皆無に近く、

 

もしいたとしても、

 

たまたまこちらを見上げている

人間がいる確率も皆無に近い。

 

それに、

俺の中の何かが告げていたように思う。

 

『アレは違う』

 

・・・と。

 

俺は弾かれたようにドアへ飛び付き、

ノブをかき回した。

 

しかし、ドアは開かない。

 

そうだ、ここは四階。

 

鍵を外して侵入したのは

三階のドアなのだ。

 

下に降りようとして、

思わずしり込んだ。

 

もしも、あの女が・・・

手すり女が上って来ていたらどうする?

 

鉢合わせするのではないか?

 

あの赤い服の少女が・・・

 

いや、きっとあの赤い服は

元は赤くなかったのかも知れない。

 

『血塗れの手すり女は、

 

外階段に来た人を突き落として

殺しちゃうんだって~』

 

怖い。

 

怖いがここで固まっている

わけにもいかない。

 

そう思い、

 

俺は震える足をなんとか動かしながら、

階段を下った。

 

三階の踊り場は、

がらんと静まり返っていた。

 

二階へ続く階段を見ても、

誰かが上って来る気配がない。

 

俺は胸をなでおろして

三階のドアのノブを握った。

 

その時だった。

 

人間には周辺視野というものがある。

 

ある一点を凝視していても、

その周囲もなんとなく見えるというアレだ。

 

ドアノブを見ていた俺の視界の端、

階段を挟んだすぐ隣に人がいた。

 

赤い服を着た人影だった。

 

さっき見た時は確かに誰も上って来る

気配はなかったはずなのだ。

 

霞か何かのように、

人影はそこに存在していた。

 

ノブを握ったまま動けない俺。

 

目の焦点が合っているのはドアノブだが、

本当に見ているのはその人影の方だ。

 

人影は動かない。

 

俺の方に体を向けたまま、

その動きを止めている。

 

長い間、

俺は動けずにいたが、

 

ある瞬間、

意を決してドアを開け、

 

一目散に逃げ出した。

 

次の日、

 

俺はそのことを友達グループに話したが

全く信じてくれず、

 

その後にも何回か外階段を訪れたが、

その少女に会うことはなかった。

 

あれが本当に手すり女だったとしたら、

なぜ俺を突き落とそうとしなかったのだろうか。

 

俺は子供心にこう思っていた。

 

『手すり女に突き落とされ殺された者は、

次の手すり女になってしまうそうだ』

 

だったとしたら、

 

手すり女が突き落とす対象は、

噂が手すり『女』である以上、

 

女性じゃなければならなかった・・・

のではないかということだ。

 

その小学校で生徒が死亡した

という話は聞かない。

 

もしそうだったとして、

 

そして俺があの日に見た少女が

本当に手すり女だったとしたら、

 

彼女は今も・・・。

 

(終)

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