火葬

先輩から会社の休み時間に聞いた話。

 

だいぶ昔のこと、先輩の田舎のおじいさんが

亡くなった時の話なんだけど。

 

死因はフグの中毒死。

夕食に食べたフグにあたってのことだった。

 

おじいさん一人でだったらしく、

おばあさんが家に帰って来たときには顔が紫で、

息もしてなくて「もうだめだ」っていう状態だったそうだ。

 

翌日に通夜で、

その次の日に火葬という段取り。

 

当時はちゃんとした火葬場なんて無くって、

山奥の焼き場に親族と知人で遺体を焼きに行く。

 

焼けた頃に、また何人かで骨を取りに行く

っていう式だったんだそうな。

 

焼き始めたのが結構遅かったらしく、

焼ける頃にはもう日も沈む頃。

 

おじいさんの知人の男二人で

シャベルと明かりを持って焼き場に向かう。

 

さあ、骨を拾おうかと思ったら、

棺桶の灰ばかりで肝心の骨がない。

 

そんなはずは無いって言うんでよく照らしてみると、

灰を引きずったような跡がある。

 

二人はその跡を追って進んでみたら、

おじいさんがいた。

 

焼き場からほどない所の木の下で、

あぐらをかいて。

 

全身が赤黒く焼け、半分炭化し、

ところどころ骨の見えた姿で・・・。

 

「俺が思うに・・・」先輩が続ける。

 

「最初に死んだと思ったとき、

じいちゃんはまだ生きてたんじゃないかな?

仮死状態で焼かれている途中に、

息を吹き返しちまったとか」

 

焼かれながらも、なんとか棺桶からはい出し、

その木の下まで行ったところで力尽きた・・・。

 

想像を絶する光景だ。

 

当時は医学もまだ進んでおらず、

ましてや田舎のこと。

 

そういうこともあったのかもしれない。

 

なんにせよ、このままではいけない。

一人の男がもう一度焼き場に戻そうとした、その時だ。

 

「きいいいいさまああ!!!

死んでまで人様に迷惑かけるかあああああああ!!!!」

 

もう一人の男が持っていたシャベルで

おじいさんの体を打ちのめした。

 

そして焼き場まで、

蹴り倒すように運んで行ったんだ。

 

どうやら亡くなったおじいさんは

金貸しを生業としており、

それもそのやり方がかなり悪どく、

ご近所さんはおろか、

近隣でも有名な人だったそうだ。

 

トチ狂った男も「これできれいさっぱり縁が切れる」

そう思って骨を拾う役を申し出たのかもしれない。

 

俺が怖かったのは、先輩がこの話を

「休憩時間の笑い話」として話したこと。

 

「なんでこの話を自分が知ってるのかと言うと、

じいちゃんを叩かなかった方の男が、

何年かして自分が死にそうになった時、

事実を墓場まで持って行けず、

ばあちゃんに実はこういうことが・・・って

話したんだってよ、

あははははははははははははははは」

 

もちろん、話を聞いた俺を含め、

誰一人愛想笑いひとつ出来なかったんだ。

 

(終)

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