一つだけ空き部屋にしている理由 1/3

和室

 

山奥の田舎に住んでいますが、

僕が子供の時の話です。

 

小学校低学年の頃は、

親と一緒に寝るのが当たり前でしたが、

 

高学年になってくると、

やはり自分の部屋が欲しくなり、

 

兄や姉のように「自分の部屋が欲しい」と、

母にねだりました。

 

ちょうど2階の角部屋が空いていたので、

そこをくれと頼みました。

 

(2階には3部屋あり、

角部屋以外は兄と姉の部屋)

 

すると、

 

母は驚くほど強い口調で「ダメ!」

と断ってきたのです。

 

その部屋は日当たりも良く、

家の中でも好条件に当たる部屋なのに、

 

雨戸もずっと閉め切ってあり、

物置代わりになっていました。

 

しかし、

 

大した荷物が置いてあるわけでもなく、

庭には大きめの物置もあり、

 

普段ちょっとした物を仕舞うのは

庭の物置の方で、

 

その部屋は本当に使われていない部屋でした。

 

それが子供心にも不思議だったし、

 

そんな部屋があるのに、

自分の部屋がもらえないのも理不尽に思い、

 

粘りに粘りました。

 

しかし、母は強硬に反対し続け、

絶対に譲る気配がないので、

 

仕方なく父の方に

ターゲットを切り替えました。

 

父は頑固で厳しく、

子供心に怖い人だったので、

 

あまり頼みたくなかったのですが、

それほど自分の部屋が欲しかったのです。

 

今思うと簡単にもらえると思っていた部屋が、

思いもよらない強硬さで反対されたので、

 

子供心に意地になっていたのかも知れません。

 

役場から帰った父に頼むと、

意外なほどあっさり許しがもらえました。

 

怒鳴られる事を覚悟して、

 

心臓もドキドキしていただけに

拍子抜けしてしまい、

 

しばらく呆然としたほどです。

 

「何だ、嬉しくないのか?」

 

という父の言葉で、

ようやく我に返ったほどです。

 

しかし、それを後ろで聞いていた母が、

血相を変えて飛んできました。

 

「あなた、絶対にダメです!

あの部屋だけは絶対に!!

 

ユウスケがどうなっても良いのですか?」

 

いつも穏和な母が最初からムキになって

断ったのにも驚きましたが、

 

父の決定に真っ向から反対するのも

それ以上に驚きました。

 

あまりに驚いたので、

 

母の奇妙な反対の理由にも

頭が回らなかったほどです。

 

父は吸っていたタバコを消しながら、

 

「まだお前はそんな事を言っているのか?

 

あの部屋はこの家でも

条件の良い部屋なんだぞ!

 

いつまでもあのままじゃあ、

もったいないだろう。

 

あの時はお前の意見を聞いたが、

もういい加減にしろ!

 

息子の自立心の成長を

邪魔する親がどこにいる!」

 

父の一喝で、

 

母も不満そうと言うよりは

不安そうでしたが、

 

とうとう折れました。

 

母の異常な言動が少し気になりましたが、

 

部屋をもらえた嬉しさで、

そんな事も気にならなくなりました。

 

次の休日に父や兄弟が手伝ってくれて、

 

2階の部屋の物を物置に移し、

掃除もして、

 

僕の部屋は勉強机しかないけれど、

遂に完成しました。

 

母はまだ暗い顔をしていましたが、

 

今まで怖いばかりの父は、

母が暗い分も明るく頑張ってくれて、

 

汗だくで笑いかけてくれる父は、

もの凄く頼もしい感じがしました。

 

初めて一人で寝る晩、

母が僕の所にこっそりという感じで、

 

家族に気付かれないように

やってきました。

 

部屋に入ってきて

何かを言い出そうとしていましたが、

 

思い悩んでいるようで、

なかなか何も言い出しません。

 

僕は部屋の事で反対されてから、

母に対して険悪な感情を少し持っていたので、

 

「何なんだよ!」

 

と強めに言ってしまいました。

 

そうすると母はビクッと体を震わせ、

「ごめんね・・・」と謝りました。

 

「もう、この部屋はユウスケのものだし、

お母さんも反対はしない。

 

でもね、

これだけは覚えておいて欲しいの。

 

もし、この部屋で何かあったら、

 

これを強く握りしめて

南無阿弥陀仏と唱えなさいね」

 

そう言って、

ちょっと変わったお守りを渡してきました。

 

何の事やらさっぱり分らず、

何と答えて良いか困っていると、

 

母は「忘れないでね」と言って、

出ていきました。

 

話の内容より母の真剣な眼差しが怖くて、

 

しばらく天井を見つめて考え込んでいましたが、

いつのまにか眠ってしまいました。

 

その晩は何事もなく、

 

次の朝には母もいつもの穏和な母に

戻っていました。

 

そして幾日かが過ぎ、

 

家の余っている家具を運び込んで

部屋の体裁を整える事に一生懸命になり、

 

母もそれを手伝ってくれたので、

僕はそんな事を完全に忘れ去っていました。

 

しかし、

 

村の外れにある家で葬式が出ると、

母の態度がまた少しおかしくなりました。

 

でも、おかしいと言っても、

たまに僕を心配そうに見つめるだけで、

 

亡くなったのが母とよく話をしていた

仲の良いお婆さんだったので、

 

それが原因かと思い、

特に気にはしていませんでした。

 

しかし、

お葬式が終わって幾日かした晩の事です。

 

僕が寝ていると、

何か変な物音で目が覚めました。

 

僕の家は、

街に降りるための路に面しており、

 

山向こうの街から夜中でも、

たまに車が通るのですが、

 

その車の音かと思って窓を見ました。

 

すると、

 

確かに車が走ってきているらしく、

カーテンが明るく照らし出されていました。

 

ですが、そこに何か、

影が映っているように見えました。

 

家の外にある木の影だと思い、

 

初めは気にもせずに「なんだ車か・・・」

と再び寝ようとしましたが、

 

違和感を感じました。

 

僕が窓を見つめていたのは

4~5秒の事だと思いますが、

 

いつもは車のライトで照らし出されるのは

一瞬の事で、

 

僕が見つめている間ずっと、

照らし出される事など無いはずなんです。

 

車が外に止まっているのかとも思いましたが、

こんな所に車を止めても何も無いですし、

 

僕の部屋が照らし出される位置に、

車を止めているのも変な話なんです。

 

(続く)一つだけ空き部屋にしている理由 2/3

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