大雨の中、救助したのは・・・

 

大雨の日、震度4の地震があり、

土砂崩れの危険があるという。

 

山の斜面にある新興住宅地に

住んでいた俺は、

 

家族と一緒に近くの待避所に

避難することになった。

 

途中で近所の友人と一緒になり、

話ながら歩いていくと、

 

彼が道の途中で何かを見つけた。

 

ガードレールの下の斜面に女性がいる。

 

下に落ちた荷物を拾おうとして滑り、

足をくじいて登れなくなったらしい。

 

通りがかった人たちと一緒に、

彼女を引き上げることにした。

 

近所の大学生、俺、友人の順に

ガードレールから「人間の鎖」を作って、

 

雨でぬかるんだ斜面を降りていった。

 

友人が彼女の近くまで降りていくと、

彼女が何かを差し出した。

 

激しい雨音の中に、

赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 

女性は妊婦だったらしく、

 

斜面を落ちたショックで

生まれてしまったらしい。

 

とりあえず先に赤ん坊を

引き上げることにして、

 

上の道で待機していた人に

預けることにした。

 

ふと視野の隅で、

 

赤ん坊を渡された人の顔色が

変わるのを見た気がした。

 

再び人間の鎖を伸ばして降りていくと、

女性がいない。

 

友人が女性を探そうとして

手を離そうとした時、

 

上から声がした。

 

「おい、早く上がって来い！」

 

上の人に女性が居なくなったことを伝えたが、

 

とにかく上に戻れと言うだけで、

話が通じない。

 

友人が再び女性を探しに行こうとした時、

再び上から声がした。

 

「そいつを行かせるな！戻って来い！」

 

叫び声に尋常ではない様子を感じ取ったので、

渋る友人を強引に上へ引き上げた。

 

上で待っていた人に教えてもらったところ、

 

どうやら俺達が引き上げたのは、

乳児のミイラだったらしい。

 

にわかには信じられなかった。

 

激しい雨の中でも赤ん坊の泣き声は、

はっきり聞こえていたのだが･･･

 

（終）