とある土手で見つけた人形

俺が小学生の頃だったかな。

 

季節は8月くらい、

夏休みの終わりの頃だった。

 

俺の故郷は海の近くで、

海岸線には堤防があり、

堤防の近くの土手で、

よく仲間と遊んでいたものだった。

 

その日は、夏休みも

もうすぐ終わろうとしている頃で、

俺達は、その堤防の土手の近くで

スケボーをしていた。

 

しばらく経って

俺は喉が渇いたんで、

近くの自販機まで

ジュースを買いにいった。

 

他の仲間達は、

まだ土手でスケボーしているのが

自販機のとこからでも見えた。

 

ジュースを買って、

土手のところまで戻っている途中、

ふと気づいたんだ。

 

「・・・仲間の一人がいない」

 

俺は、そいつがいないことを

他の仲間に言った。

 

「Yがいないみたいなんだけど」

 

すると、他の仲間は

皆知らないみたいで、

 

「さっきまで確かにいたんだけどなぁ」

 

って感じで、どこに行ったのか

知らないみたいだった。

 

その時間、

海は満潮で風も強く、

波は荒れていた。

 

海に落ちたりしていたのなら

大変なことになる。

 

そう思った俺らは、

急いでYを探し始めた。

 

土手の下は草が覆い茂っていて、

ひどいところでは人の背丈にもなる。

 

そこをかき分けて、

仲間と一緒にYの名前を

叫びながら探していた。

 

そこに、仲間の一人の声が

聞こえたんだ。

 

「いたぞーーーー!!」

 

俺達は、その声がしたところに

急いで駆けつけた。

 

そこには、Yが倒れていて、

そのそばに叫んだ仲間の姿があった。

 

Yの顔は真っ青で、

左の足首を押さえて

うずくまっていた。

 

顔中が汗でぐっしょりで、

うわごとのように

何かブツブツ言っている・・・。

 

俺達は、

これはただごとじゃぁないって感じて、

すぐそいつをチャリに乗せて、

近くの病院に連れて行き、

Yの両親に連絡を取った。

 

Yは、複雑骨折だった。

 

それが不思議な事に、

縦に骨が砕けているような

感じだったそうだ。

 

Yの両親からお礼を言われて、

俺達は家に帰った。

 

二学期を迎えて、最初の日曜日。

 

俺は、そのとき一緒だった

仲間と共に、

Yが倒れていた草むらを

探検しに行った。

 

なぜ、あんなところに

Yは倒れていたのか?

 

なぜ、あんな怪我を

したのだろうか?

 

ちょっとした探偵のような

気分だった。

 

しばらく見て回ったのだが、

何も見つからなかった。

 

一緒に探索していた仲間は、

飽きてきたらしく、

土手に行って

スケボーをし始めた。

 

俺もそろそろ飽きてきた、

その時だった。

 

Yが倒れていた場所の

少し向こうに、

草が生えていない

ところを見つけた。

 

近づくと、そこは

何かを燃やした後のようで、

炭になったものが

山のように重ねられていた。

 

ゴムが焼けたような

嫌な匂いがした。

 

近づいて、ゆっくりと

それらを観察してみた。

 

全身に、鳥肌が立つのが分かった。

それらはすべて「人形」だった。

 

京人形のようだった気がする。

 

切れ長の目や小さな唇が、

真っ黒に焼け焦げていて、

 

その人形が全部で50体・・・。

いや、もっとあったような気もする。

 

ひとつだけ、

その山から手前に落ちていた

人形が目にとまった。

 

その人形の左足首が

真っ黒に焦げて、

解け落ちていた。

 

あまりにも恐ろしくて、

その人形のことは

仲間にも言わなかった。

 

ただ早く家に帰りたくて、

仲間をせかしてその場を離れた。

 

帰宅して両親に、

その事を話してみた。

 

両親は、最初笑いながら

聞いていたが、

俺が人形を見たというあたりで、

顔つきが険しくなった。

 

俺は両親から、小声で

ある事を聞かされた。

 

俺の住んでいる町、

昔は海だったこと。

 

それを干拓して、

埋め立てたこと。

 

その作業は当時大変で、

多くの人間が犠牲となったこと。

 

犠牲となった人たちを

供養するために、

神社に人形を

その都度、奉納していたこと。

 

人形を奉納していた神社は、

今は朽ち果てて、

誰も訪れる人が

いなくなってしまったこと。

 

そしてその神社が、

俺達がスケボーして遊んでいた

あの土手の直ぐ近くに

あるということ。

 

誰があの人形をあの場所で、

燃やしていたのかは分からない。

 

あの時、

何があったのかをYに聞いても、

口を閉ざして

何も話さなくなってしまう。

 

あれからずいぶんと

長い時間が流れたが、

俺は今でも人形が嫌いだ。

 

たとえ、どのような人形でも、

あの時のことを思い出してしまうから。

 

(終)

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