異質の存在に出会った時の話
拝み屋系の血筋であるうちの家族が『魔』と呼んでいる、怨霊とも言えない色んなものが重なって出来た異質の存在に出会った時の話。
個人ビルの1階にフレンチレストランがあり、俺はそこで働いていた。
担当は、ホールとデザート作りといった感じ。
そこのオーナーは馬鹿ほど怖いものが大好きで、店のプロジェクターで夜な夜な『ほんとにあった!呪いのビデオ』を見る人だった。
店の裏口が鬼門で、ただでさえ霊の出入りが激しい場所のに、そんなビデオを店を閉めてから夜な夜な見てるもんだから、幽霊が居ない時の方が珍しい状態だ。
それは女の上半身だった
ある日、俺はホールでお客さんの様子を棒立ちしながら見ていると、俺が着ているコックコートの腰エプロンを掴んで揺する男の子が現れた。
随分と今日はハッキリ見えるなぁと思いながら、その緑色の男の子を見る。
あまり悪意は無さそうだから、『ちょっと離れてくれ。仕事してるんだ』と心の声で話しかけてみたが、一向にやめてくれない。
揺れが目に分かる程に激しいので、バックにいたシェフの渡辺(仮名)が「おいおい、どうした?」と俺を心配し始めた。
俺は「いや、その、ね?」と言ったら渡辺も大体把握して、「厳しくなったら言えよ」と一言。
よくよく店内を見回すと、やけに霊が騒がしくなっている。
そして店の一番奥の隅に、気付いたら何かがいた。
静かに現れたようだが、それは女の上半身だった。
髪はそこそこ長く、体は頭から腰までしかない。
異様だったのは、女の腕の周りから幼児ほどの腕が左右それぞれ10本ほど生えていた。
さらに、お腹の周りには幼児の顔がずらっと埋め尽くすように並んでいて、腰の辺りからは幼児の足がニョキニョキと生えている。
そんな異様な赤い奴だった。
俺は、「えっ?何これ?」という状態だ。
今までも体の一部が無い幽霊だとか、体の一部が肥大化している幽霊は見たことはあったが、こんな不気味な奴を見たのは初めてだった。
その時、コックコートを引っ張る男の子が赤い奴を指差す。
どうやら『何とかして』と言っている様だったが、あまりの醜悪さと強烈な悪意に、自分の力ではどうにも出来ないと断った。
そして、いつの間にか俺の周りは幼児だらけになっていた。
さらに揺れが激しくなる中、赤い奴は俺に視線を合わせてニタリと笑っていた。
俺は揺れながら『これはマズイ!』と思った時、思いっきり倒れた。
タイミング良く渡辺が俺の体を支えにバックから出ていたので、床に頭を打つことはなかった。
だが、渡辺にバックに引きずり込まれながら、「顔が熱い・・・右の顔が・・・」と俺は訴えていた。
渡辺は焦りながら俺の顔を覗き込むと、一瞬で表情を変えた。
そして「お前、誰だよ?」と言われて、なんとなく察しがついた。
渡辺は続けて、「お前、顔半分が別人じゃん!」と言った。
結局、その日は少し休んでから、赤い奴を無視して早退した。
この事態を母に電話で相談すると、そこで初めて『魔』だとか言われて、色々対処してから眠りについた。
数日後に仕事復帰し、泊まり込みをした時には赤い奴はいなかったが、あの女の残り香みたいなものが残っていて、その時に泊り込みをした全員の夢の中に女が現れて皆がパニックになっていた。
そしてそれっきり女はいなくなった。
母曰く、祈祷師だとか拝み屋の血筋の人間は霊たちに気付かれているから、助けを求めたり力目当てで寄ってくるという。
いい迷惑だ。
(終)