コンコン、電話を貸してください

受話器

 

これは、数年前にあった実話だ。

 

当時、俺は20代で一人暮らしをしていて、隣の部屋には40代のおじさんが一人暮らしをしていた。

 

その日、夜23時頃に帰宅すると、隣の部屋でなにやら女性が大声でがなっている。

 

内容は聞き取れない。

 

真面目そうなおじさんだが、女と揉めるような事もあるのか~と気にしなかった。

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外れていた電話の受話器

しばらくすると女性の笑い声。

 

仲直りしたのか~それにしても声デカイな(苦笑)と、またもや気にせず。

 

さらにしばらくすると、壁の近くで「もしもし?もしもし?早く出てよ!」と大声をあげる女性。

 

さすがに気になって聞き耳を立てるが、どうもおかしい。

 

おじさんの声が全くしないのだ。

 

気味悪く思っていると、誰かが俺の部屋の玄関の戸をコンコンとノックした。

 

見に行くと、ドア越しに女性が「電話を貸してください。○○の部屋の電話が壊れてるの」と言う。

 

おじさんとは多少のご近所付き合いがあったので、もしや痴話喧嘩から発展して事件に!?と思い、電話を貸すため女性を部屋にあげた。

 

女性は部屋にあがるや否や、「助けて!私殺される!」と連呼して落ちつかない。

 

歳は40くらいか。

 

曰く、警察を呼ぶために電話したいと言う。

 

女性を自室に残し、俺はとりあえずおじさんの様子を見に行くことにした。

 

部屋は元々なのか、この女性と争ってこうなったのかは分からないが、酷い荒れ様だった。

 

多少ビビりながら部屋にあがるも、おじさんの姿はない。

 

そして、外れた受話器を元に戻す時に気付いたが、ツーツーと鳴っていた。

 

何がなんだか分からないまま部屋に戻ると、さきほどの女性の姿はなかった。

 

もしかして泥棒か?とも思ったが、ぱっと見た感じでは取られた物は何もなさそうなので、そのまま寝ることにした。

 

だが、不可解な出来事の後のせいなのか熟睡できず、夜中に何度も目を覚ます。

 

そのまま天井をぼーっと見ていたら、枕元で何かの気配がした。

 

飛び起きて目を凝らして見てみると、クローゼットからこっちを見る目が・・・。

 

目が合ったか?と思った瞬間、大声で笑い出すクローゼットの中の女性。

 

気が動転した俺はTシャツとトランクス姿のまま、近くのコインランドリーへ逃げた。

 

朝になってから恐る恐る部屋に戻ると、数人の警察官がいた。

 

どうやら隣のおじさんが呼んだらしい。

 

俺はおじさんに、「ただの泥棒ではない」と教えた。

 

しかし、おじさんは心当たりがあったようで、その日の昼に商品券を持ってお詫びに来た。

 

何があったのか?

 

一体あの女性は何なのか?

 

結局は何も聞けないまま、今も隣同士で暮らしている。

 

ちなみに、俺の部屋もおじさんの部屋同様に荒らされていた。

 

何も取られていなかったが、なぜか電話の受話器は外れていた。

 

(終)

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