ステゴサウルスを見たことがあると言う老人
これは、夢やロマンが少しある話。
ある夏休み、私は某県立自然科学博物館でアルバイトをしておりました。
来館者に展示場所の案内をしたり、展示物の簡単な説明をしたりする、ガイドのような仕事です。
私の担当エリアは1階のメインホールで、恐竜や古生物の化石や骨格標本が展示されているところでした。
8月のある日、20人くらいのご老人の団体がやって来られました。
その中のお一人、かなりのご高齢と察せられる男性が、とても熱心に展示物を見ておられました。
他の方々が別の展示場へ移動されても、そのおじいさんだけはいつまでもその展示物の前から動きません。
私は何か説明してあげられることがあるかと、その方に近づいて話しかけました。
「何かお知りになりたいことがございますか?」
すると、おじいさんはこう言ったのです。
「私はこれを見たことがある」と。
私は改めておじいさんの前の展示物を見直しました。
それは、5メートル程のステゴサウルスの骨格標本でした。
おじいさんが言葉を続けます。
「私は戦争中、インドネシアに行っていた。そのジャングルの中で、確かにこれとそっくりの生き物を見たことがある」
私が呆気に取られていると、おじいさんはやがて同行の方々と去ってしまわれました。
今になってみれば、もっと詳しく話を聞いておけば良かったと後悔しております。
(終)