その山には意思があり入山を拒んでいる
山に囲まれた過疎が進行している小さな村、それが俺の田舎だ。
これは、その村を囲んでいる山のうちの一つの不可思議な話。
その山は、ただの小さな山。
地図には名前さえ記されていない小山。
だが、地元民はこの山にある名前を付けている。
その名前とは『入れずの山』。
山の前に立ち、いざ入らんとしても足が前に進まない。
この山の前に立った人は皆こう言う。
「山が何か形容し難い威圧感を発している。俺には無理だ。入る気分を打ち砕かれた」と。
過去に意志の強い何人かが山に入っていったこともあったが、途中で気分が悪くなって戻ってくる。
隣の山から望むことができる、その何の変哲もない頂上に立った者は未だかつて誰一人としていない。
ちなみに、この山には神社があるだの遺跡があるだのという話はない。
姥捨て山とか天狗伝説、UFOやUMAなどといったような話も一切ない。
本当に、見た目はただの小山。
だが、皆が口を揃えて言うことが一つある。
「この山には意思があり、入山を拒んでいる」と。
もしかして、この山に選ばれた者しか入れないのだろうか。
ただ、一度入ってしまったら出られないような気もするが・・・。
(終)