認識を変えた霊体験

霊感の強い友人いわく。

 

『霊は生前の記憶を繰り返すだけの

残像のようなもの』

 

なのだそうだ。

 

とある踏み切りに、

 

いつも中年のサラリーマン風の

男が立っている。

 

焦点の定まっていない目と、

生気を感じない表情から、

 

一目見て

霊だと分かったらしい。

 

ぼんやり見ていると警報が鳴り、

そこへ通過する列車。

 

あっと思う間もなく、

踏切内へ飛び込む男。

 

ぐちゃぐちゃに潰される音。

 

メリメリって感じの、

 

生木を裂くような音に

聞こえるんだそうな。

 

何事もなく、

通過する列車。

 

誰も男が轢かれた事なんか

気付かない。

 

見えてないだろうからね。

 

翌日も同じ時間に同じ男がいて、

列車に飛び込んでゆく。

 

これを何度も延々と

繰り返している。

 

だから10年近くも同じ光景を

目撃し続けていたらしい。

 

さすがに習慣化してしまうと、

 

最初に見た頃の恐怖なんて

無くなってしまうだろう。

 

ある日、

 

いつものように出勤時間、

その踏切を通過した時の事。

 

なぜか後ろが気になって

踏切を振り返って見た友人は、

 

恐怖でド肝を抜かれてしまった。

 

いつもなら列車に

飛び込むだけの男が、

 

まるでビデオテープの早回し

みたいな感じの不自然さで、

 

ぞろぞろぞろ、

って歩いて来た。

 

そして、 

 

「なんで止めてくれないんだ!」

 

って一言。

 

霊は記憶を再生するだけの残像。

 

という認識は、

その日から無くなったそうだ。

 

イレギュラーな事態に遭遇して、

その日はかなり取り乱していた。

 

(終)

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