幽霊が出る廃工場に取材した時のこと

あるフリーライターが、

 

『幽霊が出る』

 

という噂のある廃工場で、

泊まり込みの取材をした時のこと。

 

現場に着くと

夜になっていて、

 

『いかにも･･･』

 

という雰囲気の工場なのだが、

門には初老の夜警さんがいた。

 

廃工場なのに夜警がいる･･･

 

これは本当に何かあるな、

と思ったそうです。

 

「ここで泊まり込みの取材を

したいのですが」

 

「泊まりで取材？

何言ってるんだ、君。

 

この中では

人が死んでるんだぞ。

 

そんな馬鹿なことは

やめなさい」

 

「いえ、私も仕事で、

どうしても取材したいのですが･･･」

 

「仕事と言うが、

 

誰も中に入れないのが

私の仕事なんだ。

 

諦めて帰りなさい」

 

「いえ、どうか･･･」

 

「どう言われてもダメです。

中に入れば祟りに遭うぞ」

 

祟りと聞いた時、

 

フリーライターは

背筋がゾッとした。

 

しかし、彼もプロ。

 

帰るフリをして、

 

夜警さんの死角になるところから

塀をよじ登って中に入った。

 

工場内の倉庫のような所に

入り込んだ。

 

その倉庫内は、

不思議な雰囲気に満ちていた。

 

まず、工場内の倉庫なのに、

なぜか壁に絵が飾ってある。

 

どうも、人物画らしいが、

暗くて良く分からない。

 

夜が明けたら確認しよう、

ということにして、

 

しばらく座っていると、

足音がする。

 

さっきの夜警さんの巡回だな、

と思った彼は、

 

倉庫内に置かれていた

デスクの陰に隠れた。

 

夜警さんは怪しいと思ったのか、

倉庫の周りを何周もしていたが、

 

やがて、別の場所に

移ったようだった。

 

ほっとして、

デスクの陰から出て来ると、

 

一瞬、頭上に

ひらひら動くものが見える。

 

「！！！！！」

 

遂に出たかと思ったが、

 

それは倉庫の梁から下がる

ロープだった。

 

すっかり気が抜けてしまった彼は

そのまま座り込み、

 

持ち込んだ酒を飲みつつ

取材を続けたが、

 

結局、朝まで何も出なかった。

 

明るくなったので

例の絵を確認に行ったが、

 

下の方にプレートが掛かっていた。

 

株式会社 XXXXX

第4代社長 XXXXXXX

 

これも関係が無いらしい。

 

結構怖かったのに、

 

何の収穫も無しで

引き上げようとしたが、

 

夜警さんが昨夜、

 

「中で人が死んだ」

 

と言っていたのを思い出して、

 

せめて警備員さんに

その辺の事情でも聞いておこうと、

 

入った時と同じコースで

一旦外に出てから、

 

門の警備員さんの

いる所まで行った。

 

「すいません、

雑誌XXXの者ですが、

 

中で人が死んで幽霊が出る

という話を聞いたものですから、

 

取材させて下さい」

 

「ああ、そんな取材ですか･･･。

いいでしょう。

 

あれは私の同僚でした。

 

家族を愛し、

責任感の強いやつでねえ。

 

ある日、

初孫が生まれたって日に、

 

30分だけ持ち場を離れて

病院まで行って、

 

生まれたばかりの孫の顔を

見て来ちまったんだ。

 

で、運の悪いことに、

 

その30分の間に

工場が窃盗に遭ってねえ。

 

高価なレアメタルとか

何とかってやつを、

 

ごっそり持って行ちまったのさ。

 

結局、

 

会社は工場に勤めてる

労働者の首切りをして

 

生き残りを図ったのだが、

 

解雇されたやつが

一家心中してねえ。

 

その私の同僚ってやつが

すごく気に病んで、

 

とうとう首を吊って

死んじまったのさ。

 

ここからは見えないんだけど、

 

向こう側にある倉庫の梁に

ロープを掛けて。

 

ところであんた、

この話はどこで聞いたの」

 

「･･･夜警の方に」

 

「えっ？ここには夜警なんて

いないけど・・・」

 

（終）