通行止めの最中にかかってきた電話

これは、先輩から伺った話です。
私の職場は地方の観光地なのですが、その近くで“交通事故”がありました。
日曜日の昼のことで、かなり大きな事故だったようです。
その影響で道路は通行止めになり、客足はぱったりと途絶えてしまいました。
稼ぎ時に起きた突然の事故で、私の職場も大打撃を受けましたので、その日のことはよく覚えています。
そして、ここからが先輩の体験談になります。
その後、夕方になっても通行止めは解除されず、他の従業員たちと「やけに長いね」と話していた時、電話が鳴ったそうです。
出たのは先輩でした。
「すみません、落し物をしてしまったんですが」
電話の相手は、そう切り出しました。
声からすると、年配の男性のように思えたそうです。
落し物や忘れ物を探す電話はかなりの頻度であるため、先輩はいつもの調子で「何を落とされたのですか?」と尋ねました。
しかし、返事がありません。
受話器の向こうから聞こえてくるのは、微かな雑音だけ。
息づかいのようなものがあったのかどうかも、よくわからなかったそうです。
数秒。
ほんの短い時間だったはずなのに、妙に長く感じられたといいます。
「あの、お客様……?」
もう一度、少し声を強めて呼びかけた、その直後。
ぶつん、と唐突に電話は切れました。
不思議に思ったものの、ちょうどその頃に通行止めが解除され、足止めをくらっていたお客様が一気に押し寄せてきました。
あまりの忙しさに、その出来事も次第に頭の片隅へ追いやられていったそうです。
数日後、事故の詳細が知らされました。
事故に遭ったのは50代後半の男性。
乗っていたバイクが転倒し、道路に投げ出されたところを後続のトラックにひかれて亡くなったとのことでした。
ここまでなら、ただの痛ましい事故の話です。
ですが、衝撃はそれだけではなかったようです。
トラックにひかれた際、男性の身体の一部が激しく損壊し、周囲へと飛散してしまったらしいのです。
あの時に長く続いた通行止めは、“現場周辺に散ってしまった『一部分』を探すためだった”といいます。
それは最終的に、道路から少し外れた林の中で見つかったそうです。
その発見時刻が、ちょうど先輩があの奇妙な電話を受けていた頃だった、と。
「すみません、落し物をしてしまったんですが」
あの声は、いったい何を落としたと言いたかったのでしょうか。
単なる偶然かもしれません。
悪質なイタズラだった可能性だってあります。
けれど、あの沈黙の重さを思い出すと、“どうしても別の想像をしてしまう”。
そう言って先輩は、それ以上は何も語りませんでした。
あの電話のことだけが、今もどこかに引っかかったままなのだそうです。
(終)
AIによる概要
この話が伝えているのは、「説明できてしまいそうな出来事ほど、一番不気味だ」という感覚です。
交通事故も、通行止めも、落し物の問い合わせ電話も、それぞれ単体で見れば特別なことではありません。どれも現実に起こり得る、ごく日常の延長にある出来事です。だからこそ、読んでいる側も最初は安心しています。ところが、事故で失われた“身体の一部分”と、「落し物をしてしまった」という電話の言葉、そしてその時間の一致が重なった瞬間、日常だったはずの出来事がゆっくりと裏返ります。
それでも、この話は「幽霊だった」とは断言しません。偶然かもしれないし、誰かの悪質ないたずらかもしれない。その余白を残したまま終わるからこそ、読む側の想像が勝手に動き出してしまうのです。はっきりした怪異よりも、「もしかしたら」という疑念のほうが、長く心に残るものです。
つまりこの話は、超常現象そのものよりも、「意味がつながってしまった瞬間の気味悪さ」を描いています。そしてもう一つ、失ったことすら自覚できない存在の不条理さや哀しさも、どこかににじんでいます。
先輩が重い表情で語り終えるラストも含めて、この話は恐怖というよりも、拭いきれない違和感を読者の中に置いていく出来事なのだと思います。

































