現実と幻覚の狭間

二年くらい前の話。

 

夜になって隣町の友達に用があって、

車で出掛けることになった。

 

自分の住んでる町から

隣町に行くルートは二つ。

 

山道を越えて行くのと、

国道を通って行く道。

 

国道の方が若干早いが、

交通量も結構多い。

 

車に慣れていなかったし、

眠いこともあって、

 

少し遠くなるが交通量のない

山道を通ることにした。

 

山道は最近トンネルが出来て

走りやすくなってたので、

 

初心者の癖に結構スピード出して

車を走らせてた。

 

トンネルを越えてちょっと行くと、

 

火葬場があることを思い出して、

何か嫌な気分になったんだよ。

 

車に乗ってるのは

自分だけだし。

 

まして、夜中でこんな山道。

 

国道を通れば良かったかなあ、

とも思った。

 

でも今さら引き返せないし、

怖いからさっさと行っちゃおうってことで。

 

アクセル踏み込んで、

 

さらにスピードを上げて

通り過ぎようとした。

 

火葬場を横目に通り過ぎる。

別に何てこと無いじゃん・・・。

 

結局、何かあるわけでもなく、

無事にそこを通過した。

 

元々そう言う噂があったわけでもなく、

怖がってた自分が馬鹿らしい。

 

安堵してまた視線を前に戻すと、

 

いきなり白い服を着た女が

飛び出してきた。

 

夜中の二時だっていうのに、

なんでこんなところで!

 

そう思って慌ててブレーキを

踏み込んだけど、

 

スピードがかなり出てたので

止まらない。

 

駄目だ、と思って目をつぶって、

思いっきりハンドルを右に切る。

 

直後、全身にドンっという、

鈍い衝撃が走った。

 

はねちまった・・・。

 

かなり滑ったところで、

車はようやく止まった。

 

人をはねた恐怖で、

動揺しながらも急いで車を降りる。

 

即死だろうな、とか、

これからどうすりゃいいんだよ、

 

何て事を考えながら、

はねた女性を捜す。

 

女性は車の後方に倒れていた。

 

大丈夫ですか、

と慌てて駆け寄って声をかけるも、

 

返事はない。

 

どうしよう、と思って辺りを見回すと、

車の前方に公衆電話がある。

 

そうだ、警察に連絡しよう・・・。

 

公衆電話に駆け込んで、

警察に電話をかける。

 

今後のことを考え、

 

半狂乱になった自分は、

とにかく警察に、

 

「人をはねた、すぐ来てくれ」

 

とだけ、繰り返し訴えた。

 

取り乱す自分を警察官は落ち着かせ、

場所を聞いてくる。

 

火葬場を過ぎた辺りだと伝えると、

すぐに向かうとのことで、

 

名前と住所を聞かれて

電話は切れた。

 

警察官の冷静な対処に、

少しだけ落ち着きを取り戻した。

 

到着までの間、

 

自分はずっとその公衆電話の

ボックスの中に籠もってた。

 

怖くて車にも戻れないし、

 

まして女性の所に行くなんて

出来なかった。

 

あのスピードではねたんだから、

生きてるはずは無いと思った。

 

でも、出血も無かったし、

奇跡的に助かってるかも知れない。

 

さっき呼びかけた時は、

気絶していただけかも知れない。

 

ボックスの中でガタガタ震えて、

 

何だか訳の分からないこと

ばっかり考えてた。

 

待っている間、一度も女性に

視線を向けることはなかった。

 

5分も経たないうちに、

前の方からパトカーがやってくる。

 

すぐに警察官に事情を話して、

 

車の後方の女性の所に

引っ張っていく。

 

警察官二人と自分の三人で、

車の後方へと回り込む。

 

しかし、そこには

誰もいなかったのだ。

 

先ほどまで、自分がはねた女性が

倒れていたはずなのに。

 

慌てて周囲を探してみるけど、

どこにも人の気配なんて無い。

 

他に道はなく、

 

5分やそこいらで

遠くまで行けるわけがない。

 

女性は徒歩だったし、

はねられて倒れていた。

 

そもそも動けるはずがない。

 

結局、探し回ったけど、

女性は見つからず。

 

念のため、

警察官が車を調べる。

 

しかし、

 

車には何かをはねたような

痕跡は全くなかった。

 

人をはねたら、どこかが

凹んだりするはずなのだが、

 

そんな様子も無く、

車は綺麗だった。

 

そんな馬鹿な!

間違いなくはねたのに・・・。

 

そう訴えても、

警察官は信じてくれず、

 

火葬場の近くだから

幽霊でも見たんじゃないか、

 

とか言って、

笑うだけだった。

 

警察官の話じゃ、

 

田舎だからそういうことは

結構あるらしいとのこと。

 

自分はそんな話を聞いたことは

無かったのだが・・・。

 

結局、見間違い

ということで処理されて、

 

なんのお咎めも無しだった。

 

スピードのことも、

特には言われなかった。

 

もし万が一、ということで

簡単な調書だけとって、

 

警察官たちは戻っていった。

 

しばらく呆然としてしていたが、

 

友達に用があるのを思い出して

車に乗り込む。

 

乗る前にもう一度

周囲を見回してみたが、

 

自分のブレーキ痕の他には、

血痕も女性も、何も無かった。

 

次第に落ち着きを取り戻して、

 

やっぱり見間違いかと

思うようになった。

 

まぁ幽霊なんて滅多に

見られるもんじゃないし。

 

しかも、それをはねたとなれば、

結構話のネタになりそうだなあ、

 

とか考えてた。

 

自分のその切り替えの早さというか、

楽観的なところには我ながら呆れた。

 

一応、手を合わせてから

その場を去り、

 

無事に友達の所へと着いた。

 

後日、その友人と一緒に、

その現場に行ってみた。

 

すると、あの時に使った

公衆電話が無くなってる。

 

大して気にはしなかった。

 

きっとそれが霊騒ぎの

元凶だったんだ、

 

だからそれを取り壊したんだろう。

 

警察官も「よくあること」

って言ってたし・・・。

 

大して深く考えもせずにそう思って、

友達に事故の時のことを話した。

 

友達も霊の話とかは好きだったし、

自身も見たこともあるらしかった。

 

笑いながら聞いていた友達が、

 

だんだん眉をひそめて

蒼い顔になる。

 

そんなに怖い話かな、

と思いながらも話を続ける。

 

「でさぁ、その時そこにあった公衆電話の

ボックスで、ずっと震えてたんだよ」

 

なんて笑って話してた。

 

すると友達が、

ちょっと困った顔をして言ってきた。

 

「お前の話、おかしいよ。だってそこ、

電話ボックスなんて昔から無いぞ?」

 

その後、その町に住む友達にも

聞いて回ったが、

 

そこには元から公衆電話は

無かったそうだ。

 

よく考えれば、

 

田舎の山道にそんな物が

ある訳が無い。

 

はねてしまった女性も

もちろん謎だらけなのだが、

 

さらに疑問が。

 

警察は公衆電話から掛けてきても、

番号が分かるはずなのに。

 

そもそも、

 

その時に駆け付けてきた警察官は、

実在したのだろうか・・・。

 

今ではもうその道を、

夜中に通ることはしていません。

 

(終)

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2 Responses to “現実と幻覚の狭間”

  1. さら より:

    警察官のところでゾっとしたわ

  2. 匿名 より:

    はねたのが幽霊で良かったやん
    もし実在する人をはねて死なせてたら、この話の比じゃないくらいの事が待ってるんやから

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