6人だけの村で育った私の過去 2/2

田舎

 

それからどれくらい走ったのか、

おじいちゃんたちは車を止めました。

 

私たち3人を車から降ろして、

どこかに連れて行こうとしていましたが、

 

私は怖くて狸寝入りをしていました。

 

途中までずっと怒鳴っていた

おじいちゃんは私を抱えながら、

 

「わりしこだった、

わりしこだった(すまなかった)

 

と泣いていました。

 

暗い納屋のような場所に

私たちを寝かせると、

 

ヒサたちのおじいちゃんは、

お経のようなものを読み始めました。

 

私は「きっと殺されるんだ」と思い、

 

恐怖で身体が震え、

体中から冷や汗がどっと噴出しました。

 

心の中では何度も何度も、

 

「おじいちゃん助けて!」

と叫びましたが、

 

おじいちゃんは顔を伏せたまま、

気付いてくれません。

 

お経のようなものが終わり、

ヒサたちのおじいちゃんは、

 

懐から錆びた小刀のようなものを

取り出して、

 

私に向けました。

 

「・・・もうダメだ!」

 

そう思った時、

 

私のおじいちゃんがヒサたちの

おじいちゃんに飛びかかりました。

 

「おじいちゃん!」

 

私は力の入らない体を、

それでも必死に起こしました。

 

「逃げえ!ヒサもトモももうあかん!

お前だけでも逃げえ!」

 

と、取っ組み合いになりながらも、

おじいちゃんは叫びました。

 

私は必死に立ち上がり、

出口の方に駆け出しました。

 

後ろからヒサたちのおばあちゃんが、

 

「あかん!

お前は逃げたらあかんのんじゃ!」

 

と、叫びながら追って来るのが

わかりましたが、

 

それでも必死に走り続けました。

 

おじいちゃんの事も、

ヒサたちの事も心配でしたが、

 

必死に必死にその建物から飛び出し、

海沿いの道を走り続けました。

 

どれくらい走り続けたのかは、

もう覚えていません。

 

裸足だった私の足は、

皮が破れて血まみれになっていました。

 

痛みに耐えかねてヨタヨタと

よろめきながら歩く姿に、

 

「何かあったのだ・・・」

 

と感じたのでしょう。

 

通りかかったパトカーが止まり、

降りてきた警察官が声をかけてきました。

 

「助かった!」

 

私はさっきの出来事を

上手く説明出来ないながらも、

 

必死に事情を話しました。

 

自分でも嘘臭い作り話に聞こえるような

話し方になってしまいましたが、

 

なんとか事情を理解してもらう事が

出来ました。

 

私はパトカーに乗せられ、

 

元来た道を警察官と一緒に

戻っていきました。

 

・・・しかし、

 

私たちが戻るとみんなの姿は無く、

しんと静まり返っていました。

 

警察官と二人で2階も探してみましたが、

何処にも居なくなっていました。

 

その後、

 

私は警察署に連れて行かれて、

色々な事を訊かれました。

 

何があったのか・・・

私の名前・・・

住所や電話番号・・・

家族の事・・・

 

でも答えられたのは、

 

「サトコ」という下の名前と、

さっき起こった出来事だけでした。

 

その時まで気付いていませんでしたが、

 

私は両親のことも住んでいた村の名前も

覚えていなかった・・・

 

いえ、知らなかったんです。

 

行方不明の届けにも該当せず、

 

帰る所も身寄りも無い私は、

施設に預けられました。

 

今では7歳の頃に養子として

もらわれた家庭で、

 

色々と問題はあるものの、

平和に暮らせています。

 

でも、今でもこの時の事を夢に見て

思い出すことがあります。

 

おじいちゃんたち、

 

そしてヒサシとトモユキは

何処へ行ったのか。

 

あの時・・・おじいちゃんたちは、

何をしようとしていたのか。

 

これが私の子供の頃の記憶です。

 

(終)

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One Response to “6人だけの村で育った私の過去 2/2”

  1. さら より:

    こえ

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