行方不明になった幼なじみに起きた事 1/2

テレビ

 

小学5年生の頃、アメリカでワールドカップが開催された。

 

だからというわけじゃないけれど、幼なじみのノリオ(仮名)とよく近所の公園でサッカーをしていた。

 

ある日、「たまには別の公園でやろう」ということになり、自分たちの行動範囲外のまだ行ったことのない公園に行ってみることになった。

 

その公園は昼間でも薄暗くジメジメしていて、何となく神社の敷地を思い起こさせた。

 

俺もノリオも、その薄気味悪い雰囲気がたいそう気に入り、かなり遠いにもかかわらず自転車で度々遊びに行くようになった。

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数日後に事件は起きる

何度目かのある日、ノリオとその2歳下の弟のタカシ(仮名)とその公園で遊んでいると、50歳くらいのおっさんが近寄ってきた。

 

髪は長く黒々としていたけれど、シワが深くて歯がボロボロで、よだれの臭いをさせていたのを覚えている。

 

そのおっさんと何を話したのかは忘れてしまったけれど、その日は3人でおっさんの家に行くことになった。

 

おっさんの家は公園のすぐ側で、通された部屋の窓からは、さっきまでいた公園が見えた。

 

部屋にはテレビがあり、ノリオが勝手にスイッチを入れてチャンネルを変えたりしていた。

 

俺はおっさんのことを、その雰囲気から知的障害者だと思っていた。

 

それはノリオも同じだった。

 

おっさんは、「ビデオがあるから見よう」と言い出した。

 

ノリオからリモコンを受け取ると、画面を切り替えた。

 

テープは予めセットしていたらしく、すぐに再生された。

 

それはかなり古いビデオで、内容は東京オリンピックにまつわるドキュメンタリーだった。

 

会場の建設風景や土地の区画整理、交通網の見直し作業などの様子をナレーションが説明していた。

 

なにぶん昔の事だから、そのビデオの断片しか覚えていないところが多い。

 

ただ競技やその結果も盛り込んだ内容のため、オリンピック終了後数年してから当時を振り返る形のドキュメンタリーだったのではないかと思う。

 

しかしそれであっても、古いビデオであるのは間違いないと思う。

 

最初、そのナレーションは普通の男性の声だったけれど、20分くらい経った頃に音が飛んで画面が暗転し、しばらくして画面は正常に戻るが、ナレーションが子供の声になっていた。

 

後から無理矢理に加工したものだとすぐに分かった。

 

子供の声も素人らしかった。

 

「これ、おっちゃんの子の声」

 

そうおっさんが嬉しそうに、俺やノリオを見て言う。

 

へ~とか、そうなんだとか、当たり障りのない返事をしたが、この古いドキュメンタリーを編集して自分の息子の声に変えるという無意味さと、その気色の悪さに鳥肌が立った。

 

ノリオもタカシもそう思ったのか、おっさんに話しかけられた顔が引きつっていた。

 

なおもビデオは続き、結局1時間半くらい見ていたと思う。

 

おっさんは、ビデオを熱心に見ているフリをしている俺たちの顔を、終始満足気に眺めていた。

 

もう辺りも暗くなったという事で、「親が心配している」などと言って、半ば逃げるように帰った。

 

帰り道、もうあの公園には行けないかもなぁ、と話した。

 

そして数日後、事件が起きた。

 

ノリオが夜の8時を過ぎても帰って来ないというのだ。

 

ノリオの母から心当たりはないかと訊かれ、真っ先にあの公園とおっさんが浮かんだが、あれ以来俺もノリオも公園には近づいていない。

 

その証拠に、失踪当日ノリオは、弟のタカシと近くの池にザリガニ釣りに行き、タカシに先に帰るように言ったきり行方不明になったらしい。

 

普通に考えれば水難事故だが、その池は天気次第ですぐに干上がるような水溜り程度の池で、当日もやはり膝下以下の水位しかなかったという。

 

即日、池さらいが行われたが、やはり何も見つからなかった。

 

俺は、“絶対にあのおっさんが関係している”と思ったが、大人たちには言い出せなかった。

 

もし関係が無かったら、あのおっさんは知的障害者だから差別だと大問題になる・・・なんてことを考えたからだ。

 

ノリオ失踪の次の日、意を決しておっさんの家に向かった。

 

あまりの緊張のため、どういう経緯でおっさんの家に上がれたか、実のところよく覚えていない。

 

しかし、とにかくおっさんの家に着いた俺は、目論んだ通り家に入ることに成功した。

 

そして予想はしていたが、やはり「ビデオを見よう」と言う。

 

満面の笑みでリモコンをいじっているおっさんに、「ノリオは来てない?」とさり気なさを装って訊いた。

 

「前に一緒に来てたヤツなんだけど・・・」

 

おっさんは心底無関心な顔で「知らない、来てない」と答え、テレビの画面が切り替わると、パッと笑顔になった。

 

そして、お待ちかねのものが始まったぞとばかりに画面を指差す。

 

やはり、前回と同じ薄気味悪いドキュメンタリーが始まり、またあの子供のナレーションを聞くのは憂鬱だなぁと思いながらビデオを見ていた。

 

そして、前回と同じ所で音が飛んだ。

 

画面が潰れ、暗転。

 

そろそろナレーションが切り替わると身構えていたにも関わらず、心臓が飛び出るかと思った。

 

この前に見た時の子供のナレーションが”ノリオの声”に変わっていたのだ。

 

意味不明の出来事にパニックになったが、ノリオの声が少し震えているようだったのが忘れられない。

 

とにかく早く逃げようと、震える腰を浮かした俺に、おっさんが嬉しそうな顔で「これおっちゃんの子」と言うのだ。

 

もう俺は限界を超え、小便を垂れ流しながら玄関まで走った。

 

走って自転車に飛び乗って、立ち漕ぎで逃げた。

 

最短距離で家に向かわず迂回して家を目指したのは、恐怖で混乱しつつも、あの男に家がバレるのはマズイと思ったからだ。

 

家に着くとすぐ母に事の顛末を話し、イマイチ懐疑的な顔をするのでノリオの家に電話したところ、ノリオの母がウチに飛んできた。

 

公園でおっさんに話しかけられ家に行ったこと、家でビデオを見せられたこと、そのビデオのナレーションがおっさんの子供であるらしいこと・・・

 

そして、今日見せられたビデオのナレーションがノリオの声に上書きされていたこと、ノリオの声を自分の息子と言ったこと、全てを説明し、ノリオはあの家にいるかも知れないと涙ながらに訴えた。

 

ノリオの母も興奮状態で泣きながら聞いてくれた。

 

(続く)行方不明になった幼なじみに起きた事 2/2

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