あいつは深夜にやって来る
ここ3ヵ月以上も続いている出来事です。
私は、母とおばあちゃんの3人でマンションに暮らしています。
あいつはいつも、母が仕事の時にやって来ます。
あいつが何なのか、それは分かりません。
あいつは決まった時間には来ませんが、必ず深夜にやって来ます。
静まり返った深夜に、コツコツと足音を響かせて近付いて来ます。
その音が聞こえた瞬間、あいつが来たと分かり、私は震えが止まらなくなります。
足音が止まり、玄関からガチャガチャと金属音がし、あいつが強引に家に入ろうとしてドアノブを無理やり回しているのが分かります。
開かないと分かると、ドンドンドンと乱暴に戸を叩くのです。
何度も何度も何度も何度も・・・。
あいつが初めて来た日、戸を叩く音で目が覚めたのを覚えています。
何が起こっているのか分からず、ただただ鍵を掛けている戸が壊れてしまわない事を布団の中で祈っていました。
しばらくすると戸を叩く音が聞こえなくなり、ホッとして無意識に身体に入れていた力を緩めた瞬間、お腹に衝撃が走りました。
一瞬息が詰まり、何が起こったのか分かりませんでした。
薄暗い中、何かをブツブツ呟きながら、あいつが足を振り下ろす姿だけが見えました。
なぜ私がこんな目に遭わなければならないのか分からず、震えることしか出来ませんでした。
あいつは何度か蹴った後、私の髪を引っ張って布団から引きずり出し、羽交い締めにし、耳元で何かを呟きながらすすり泣くのです。
「お前も・・・」
「どうして・・・」
この言葉しか聞き取れませんでした。
いつも気が付けば朝になっているので、そのまま気を失ったか、その状態で寝てしまったのか分かりません。
最初は蹴られて羽交い締めにされただけでしたが、噛みつかれることもありました。
もしかすると、これは夢なのかも知れません。
でも、今日もきっと来ると思います。
(終)
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