神社に持ち込まれた甲冑一式
ある日、甲冑一式が神社に持ち込まれた。
聞けば、ネットオークションで安く落札してみたものの、届いてから家でおかしなことばかりが起き始めたという。
怖くなったので、納めて炊き上げて欲しいと引きつった顔で言っていた。
その人の前で再確認の意味もあって甲冑の入っている箱を開けようとしたのだが、思い出すのも嫌だからやめてくれと懇願され、「そんないわく付きなのか・・・」と思いながらも神社としては断れないので引き取ることに。
甲冑には怨念がこもっていた
改めて確認のために見てみると、年代物な感じだったけれど保存状態が良かったみたいでボロボロではなく、むしろ結構綺麗な感じ。
確認も終わってまた箱にしまい、蓋もきちんと閉めてそのまま社務所の一室に置いておいた。
しばらくした頃、巫女が凄い悲鳴をあげたから「何だ?」と思って行ってみたら、確かに閉めたはずの蓋が少し持ち上がっていた。
そして巫女は指を差しながら、「箱の中に人が居て、箱の中から覗いていた」、「手も出してきて掴まれそうになった」と泣きじゃくってパニック状態に。
「そんなわけないだろう」と蓋を開けてみると、下の方にしまったはずの手の部分が上にあって疑問に思ったが、それ以外は変わりないから「気のせいだよ」とその巫女を宥めてその場は収めた。
程なくして、霊感持ちの人が外祭から戻ってきたのでその話をすると、「見てみようか?」と言うのでそれを見せた。
見た途端、「これはヤバい!」と。
とりあえず縄と御札で封印しようと言うから、兜と鎧それぞれの箱に縄を張ろうとしたが、なぜか何度もブチッと切れて困った。
最終的には祝詞を読みながら張ってどうにか出来たのだが、その様を見ていた禰宜(ねぎ)が、「こっちはいいからお前らでさっさとそれを炊き上げて来い」と言ってくれて、言葉に甘えて炊き上げに向かった。
※禰宜(ねぎ)
神職の位の一つ。神主(かんぬし)の下の役。
向かう途中も、御札が破れたり箱の中で何か動いていたけれど、炊き上げをどうにかやり終えた。
焼いている時に人間の髪の毛が焼けるようなニオイというか、火葬場のニオイみたいなのが凄く臭って気持ち悪くなった。
一緒にいた霊感持ちの人が言うには、この甲冑には人の髪の毛が使われていて、その人らの怨念が染み付いていたらしい。(おそらく、狩った首から勝手に切り取ったんじゃないかと)
だから普通の家でどうこう出来るものではないから、あのまま持っていたら死者が出ていたんじゃないか、との事だった。
そしてその夜、宿直業務で夜中の見回り中に拝殿前へ行ったら、大勢の甲冑武者が深々と拝殿に向かって頭を下げて、昇殿するように中に消えていった。
不思議と怖い感じはしなかった。
これでようやく楽になれたのかなと思った。
翌朝、拝殿を開ける時に中をくまなく見回ったけれど、特に異常はなかった。
ただ、大きい榊(サカキ)の枝が神鏡の前に数本置いてあった。
(終)