聞こえるはずのない子供たちの声

森林

 

これは、親父の若い頃の体験話。

 

親父は大学生の時に山岳班に入っており、頻繁に山登りをしていた。

 

その日もある後輩と二人で、今度登る予定の山のルートの下見に山登りをしていた。

 

その山は休火山で、火口の部分は森になっている。

 

二人がその森へ差し掛かろうとした時、急に天候が悪くなり、すぐ近くで雷まで鳴り出した。

 

二人はこのままでは危ないと思い、雷が止むまで森で休むか、一気に山を下るか迷ったが、このままでは天候は悪くなる一方だと考えて山を下ることにした。

 

二人は雷に打たれることを恐れ、死に物狂いで豪雨の中を走った。

 

走りに走り疲れ切ってしまった二人は、下り道の途中で休むのにちょうどいい、岩が窪みのようになっている場所を見つけ、そこで一旦休むことにした。

 

ヘトヘトの二人は話す気力もなく、岩の壁にもたれ掛かって降り続く雨の音を聞きながらぼーっとしていた。

 

しばらくすると親父の耳に、こんな場所ではありえない、それもこの豪雨の中では聞こえるはずのない二つの声が聞こえてきた。

 

かごめかごめを歌う子供たちの声と、それに続く「なんでこんな所にいるの?」という女の子の声。

 

こんな所に子供なんかいるはずがない、どうせ疲れて幻聴でも聞いたのだろう。

 

親父はそう思ったが、念のため後輩に「今、何か聞こえなかったか?」と聞いてみた。

 

すると、後輩は驚いた表情で「聞こえました」と言う。

 

まさかと思い、「何が聞こえた?」と聞くと、返ってきた答えは「大勢の子供たちが、かごめかごめを歌っている声」と言った。

 

ゾッとなった二人は、雨が完全に止むのを待たず、早々に山を後にした。

 

(終)

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