帰り道、目に止まった自販機 2/2

(前編)帰り道、目に止まった自販機 1/2

 

この話には後日談があってね。

今から二年前、握手から六年後だね。

 

法事のために田舎に帰省した時ね、

あの時から一度も通った事なかったあの道。

(近道に使ってた裏道だったから、

幸いにも卒業まで一度も通らずにすんだ)

 

なんでだろね・・・。

 

あれほど忘れようと思ってた

トラウマのあの場所に、

ちょっと行ってみようか、

という気持ちになった。

 

理由は分かんないけどさ、

導かれるように・・・

なんて言ったら安っぽくなっちゃうけど。

 

何かあったら嫌だな・・・と

内心ビクビクしながら車を走らせてたらね、

あっけない結末だった。

 

無かったんだよね、

その自販機。

 

そりゃそうだよね。

 

あの時ですらかなり古かったのに、

あれから八年も経ってるんだから。

 

当然と言っちゃ当然なんだけど、

何かさ、数年間に渡る呪縛から

解き放たれたみたいで、

心底ホっとした。

 

これで完全に忘れられるな、と思ってね。

 

せっかくの帰省なんだから、

昔馴染みの連中と飲みに行ったよ。

楽しかった。

 

ほんと、ここで話が終われば・・・

良かったんだけどね。

 

気分も良く、ほろ酔い加減になったオレは、

みんなにこの話を聞いてもらおうと思った。

 

八年前は、思い出すのも

言葉にするのも嫌だったから

話せなかったんだけど。

 

多分ね、なんだそりゃって、

皆に笑って欲しかったんだろうと思う。

 

それでオレも笑って、

この忌まわしい記憶はおしまい。

 

そうなってほしかった。

そうなるはずだった。

 

つらつらと話してる途中でさ、

友人の一人が「ちょっと待った」と、

話の腰を折った。

 

「何?」とオレが聞いて返ってきた言葉は、

オレの酔いを完全に覚めさせた。

 

聞かなきゃよかった。

話さなけりゃよかった。

何で話してしまったんだろう。

何で・・・。

 

そいつが言うに、

「あの道にそんな自販機なんか見た事ない」

他の四人も同様に口を合わせる。

 

おかしいぞ、おい、K。

 

お前はあの時、

朝まで念仏を唱えてくれたじゃないか。

 

オレは卒倒しそうになった。

 

あの時、泊めてくれた友人のKまで、

そんな自販機は知らないと言う。

 

あの夜の事も覚えていなかった。

 

どう言ったらいいか、

分からないんだけどね。

 

オレ、段々とこの時の記憶が

無くなっていってる事に気付いたんだよね。

 

なんていうかさ、

夢って目が覚めた瞬間は覚えてるけど、

その記憶を持続させようとしても、

ウソのように消えていっちゃうでしょ?

 

夢の記憶。

ちょうどそんな感じでさ。

 

オレほんとは、

あの時の自販機で何を買ったかとか、

あの時の学校の授業は何だったとか、

ハッキリ覚えてた。

 

でもほんと、

ウソみたいに記憶から抜けていった。

 

忘れたくても

忘れられるような事じゃないのに。

 

今ではもう、先に書いた事くらいしか

記憶に残ってない。

 

何かの意思というか、

そういうものを感じるんだよね、これ。

 

オレさ、変な予感があるんだけどさ、

完全にオレの中からこの記憶が無くなった時、

普通にまた何かの『口』に手を入れて、

またされるんじゃないかと思う。

 

『握手』を。

 

<以下、補足>

 

一つ、とても大事な事を書き忘れたので、

書いておきます。

 

というか、忘れてたというのが恐いです。

絶対にこれだけは忘れちゃいけないのに。

 

あの時、

恐ろしく強く手を握られていたのに、

あっさり抜けたのは、

 

私が持ってるお守りのおかげだと、

今では思っているんです。

 

お守りと言っても、

その方面に強かった祖母(故人ですが)の、

力と髪の毛が一本入ってる

お手製の物なんですが。

 

「田舎には物の怪が多いから」と、

祖母が生前に親戚筋へ配ったとか。

 

それは我が家にももちろんあり、

私は交通安全くらいにはなるかなと、

常備携帯してたのです。

 

祖母が守ってくれたんだなと、

今では確信してます。

 

多分これがなかったら、

放してもらえなかったと思う・・・手を。

 

記憶が消えていってるのは、

このお守りの存在を

忘れさせようとしてるのではないか。

 

あの日から、常に肌身離さず

携帯してるお守り。

 

絶対この事を書こうとしてたのに、

なぜか忘れてた。

 

このお守りの事まで忘れてしまったら、

多分おしまいだと思う。

 

次は放してくれないと思う。

 

(終)

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