タクシー運転手は怖い体験に遭遇しやすい

タクシー

 

これは、長年タクシーの運転手をしている父の話。

 

父は「幽霊とかそういうものは信じていない」と言うが、おそらく怖いから信じないようにしているのだろう、と俺は勝手に思っている。

 

ある日、テレビか何かで『タクシーの運転手は怖い体験に遭遇しやすい』というのを知った。(遭遇しやすいのは病院勤務に次ぐ職種だったかな)

 

そういう訳で俺は実家へ帰った時、父に「タクシーの運転手って怖い体験しやすいらしいんだけど、何か体験してないの?」と聞いてみた。

 

父は「まぁ怖いっていうか不思議な体験はしたなぁ」と言うので、「どんなのどんなの?」と興味深く聞き返すと、「別に言うほどのことじゃない」と教えてくれなかった…。

 

そこで母にそのことを話してみたら、「お父さんはそういうの好きじゃないから話してくれないって」と言われてさらに残念がっていると、「けど少しならお父さんから聞いたことあったわよ」と母が話してくれた。

 

以下、母の話。

 

それは10年以上前のこと、仕事が終わって帰ってきた父が、そのままその日あったことを母に話したという。

 

「今日おかしなことがあった」

 

「何かあったの?」

 

「夜の8時頃にツミヒに婆ちゃんを乗せてったんだ」※ツミヒ=地名(仮称)

 

このツミヒという場所は、一本道の先の一番奥にあるそうだ。

 

しかも、その先に道はない行き止まり。

 

「それでツミヒに向かう途中にトンネルがあるだろ?あそこを高校生くらいの女の子が制服で自転車を押して歩いてたんだ」

 

こんな時間だと部活帰りか?

 

そう考えながらツミヒへ向かう。

 

婆ちゃんの家はツミヒの入り口辺りにあったので、そこで降ろして、今来た道を戻っていった。

 

ちなみに、このトンネルはツミヒから少し離れた場所にある。

 

そしてトンネルを半分ほど過ぎた辺りで、「あれ?」と思ったそうだ。

 

さっきの高校生らしき女の子、見なかったな…と。

 

ツミヒからトンネルまでは一本道で脇道はない。

 

父は運転しながら何の気なしに歩道を見ていて、その女の子を確認しようとしていた。

 

特に理由はないが、なんとなく気になったからと。

 

だから見過ごしたはずはないと思うんだけどなぁ、と首を傾げていたという。

 

見間違いか?

 

そう思って、深く考えずにそのまま会社に戻って帰宅した。

 

「本当に見てないの?」

 

「見てない。というか、そもそもあのツミヒに高校生くらいの子供いたか?

 

「そういえば…」

 

当時そのツミヒには、大人と小学生の間の年齢層はいなかったという。

 

結局、その後も父が見たという高校生くらいの女の子の正体を突き止めていないから、曰く不思議な話だということらしい。

 

(終)

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