鳴らないはずのナースコール 1/2

病院にまつわる幽霊系の話は

よく聞きますが、

 

自分では1つしか、

体験したことがありません。

 

というわけで、その唯一を・・・。

 

これは研修医時代、

しかも働き始めの4月です。

(日付まで覚えています)

 

折りしも世間は、お花見と

新歓シーズン真っただ中。

 

浮かれ過ぎてべろんべろんになって、

救急車でご来院いただく酔っ払いで、

深夜も大忙しでした。

 

ちなみに、

ある意味洒落にならないことに、

 

前後不覚の酔っ払いは、

研修医の良い練習台です。

 

普段滅多に使わない太い針で、

点滴の練習をさせられたりしました。

 

一応治療上、

太い針で点滴をとって急速輸液ってのは、

 

医学上、正しいのも事実ですよ?

 

でも、血行が良くて血管がとりやすく、

失敗しても怒られず、

 

しかも大半は健康な成人男性

というわけで、

 

上の先生に否応なしに

一番太い針を渡され、

 

何回も何回も、やり直しをさせられながら、

半泣きでブスブスやってました。

 

普通の22G針は、

研修医同士で何回か練習すれば

すぐ入れれるのですが、

 

16Gという輸血の為の針になると

なかなかコツがつかめず、

入れられる方も激痛・・・

 

でも練習しておかないと、

出血で血管のへしゃげた

交通事故の被害者なんかには

絶対入らないわけで。

 

(特に春は飲み過ぎには注意ですよ!)

 

話を戻します。

 

その日の深夜、心肺停止の患者が

搬送されてきました。

 

まだ本当に若い方で、

医者になりたての若造は使命感に燃え、

教科書通りに必死に蘇生を行いました。

 

しかし結局30分経過したところで、

ご家族と連絡を取った統括当直医の一言で、

全ては終了。

 

その方は、今まで何回も自殺未遂で

受診していた常連さん。

(自分は知りませんでしたが)

 

しかもいわゆる、

『引き際を抑えた見事な未遂』で、

 

ギリギリ死なない程度で

留めていたようです。

 

しかし今回、

運が悪かったというのか

自業自得というのか・・・

 

だいぶ薬のせいで心臓が弱っていたらしく、

まさかの心停止。(推測ですが)

 

駆けつけた知人という人も、

固定電話から救急車は要請したものの、

到着時にはその場におらず連絡不能。

 

状況から事件性が否定出来ないため、

警察に連絡。

 

検視が行われることになりましたが、

『たまたま大きな事件があったので

朝まで引き取れない』

とのこと。

 

家族と連絡を取る時、やむを得ず

故人の携帯を見て連絡を取りましたが、

 

あっさり蘇生中止を希望。

 

『生前、家族全員を散々振り回し、

借金を負わせ、みんなが疲れきって

病んでしまった。

 

自殺が最後の希望だったろうから、

頼むから逝かせてやってくれ』

 

と・・・。

 

死亡確認後、

改めて連絡しましたが、

 

地方に住んでいて、今晩は

引き取りにも付添にもいけない、

とのことでした。

 

最後に携帯から電話をしていた

異性の知人にも連絡を取りましたが、

(おそらく通報者でしょう)

 

『今までまとわり付かれ、

逃げようとすれば自殺未遂をされて、

疲れきっていた。

 

家族でも友達でも何でもない。

もう、関わりたくない』

 

と泣き声で通話を切り、

その後は繋がらず・・・。

 

暗たんとした気分になりました。

最初の社会勉強でした。

 

結局「遺体をどうしようか」

という話になり、

 

もう一度、話は警察へ。

 

誰かが面会に来た時に、

すぐ会えるようにという配慮から、

 

『隔離室』に安置する、

こととなりました。

 

この隔離室、

 

少し説明しにくいのですが、

救急の一番奥まった所にあります。

 

手前から診察スペース

(ウォークインの診察室と救急車受け入れ)

があり、処置のスペースがあります。

 

私たちは大体、

この処置スペースと診察スペースを

行き来しています。

 

さらに奥に経過観察用のベッドが

10台あるのですが、

 

そのさらに突き当りにあります。

 

カーテン付きのドアで

仕切られていて、

 

救急室のベッド側と廊下2か所から

出入り出来ますが、

 

どちらも施錠出来ます。

 

(以前、知らない間にホームレスが

入っていたりしたことがあったので・・・)

 

正しい使用方法は、

インフルエンザの患者の点滴などですが、

 

今回はそこに入って頂こう、

というわけです。

 

空調も別になっているので、

その部屋だけ最低温度に設定して

クーラーをかけ、施錠しました。

 

ショックを受けていた自分も、

すぐにまた怒涛のように運び込まれる

酔っ払いの相手をしているうちに、

 

その患者のことが、

頭から抜け落ちていきました。

 

それが大体11時頃。

 

異変が起きたのは、

深夜1時半頃でした。

 

(続く)鳴らないはずのナースコール 2/2へ

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