一晩だけ遺体を預かったら

知人に聞いた話。

 

何年か前に、

北海道で大きな地震があって、

 

その時に発生した高波により、

ある島が大きな被害に遭った。

 

その当時、

 

知人が乗っていた輸送艦が

函館に停泊していたため、

 

急遽、災害派遣に行ったそうです。

 

最初は陸上で救援活動を

していたそうですが、

 

「波にさらわれたらしい行方不明者が

多数いるので探して欲しい」

 

と命令を受け、

探しに行ったそうです。

 

捜索の結果、

 

十数名の遺体が発見され、

港に戻ったところ、

 

「救助活動で混雑しているため、

一晩だけ遺体を預かっていて欲しい」

 

と言われたそうです。

 

その艦は輸送艦なので、

 

安置場所は艦底にある

車両格納庫に決まり、

 

そこにビニールシートを敷いて

遺体を毛布で包み、

 

一晩安置したそうです。

 

被害者の冥福を祈るため、

線香をあげるのですが、

 

火を絶やしてはいけない

という事で、

 

2時間交代で見張り番を

立てる事に。

 

その時、知人はまだ

下っ端だったため、

 

2時～4時の見張りに

立つ事になった。

 

そして、夜中の2時。

 

艦内は灯火管制により

赤灯だけが点灯しているため、

 

周囲が薄暗く赤い･･･。

 

お化け屋敷のような雰囲気。

 

そんな中、

 

がらんとした格納庫に、

生臭くなった遺体と2時間。

 

本人曰く、

 

「怖くて遺体に背を

向けっぱなしだった」

 

4時になり、

 

次直と交代しようと、

格納庫を出た。

 

格納庫から次直が寝ている

居住区に行くためには、

 

階段を上らないと行けなかった。

 

その時、知人は

ある事を思い出した。

 

それは、

 

階段を上がった先に、

大きな鏡がある事でした。

 

薄暗い中、

 

ゆっくりと音を立てず

上がりながら、

 

「鏡を見ないようにしよう」

 

と考えた。

 

そして、遂に上り切り、

鏡を通り過ぎようとした瞬間、

 

なぜかその知人は、

 

鏡を横目で一瞬だけ

見てしまった。

 

そこには、

 

薄暗く赤い明かりに

照らし出された、

 

自分の姿。

 

そして、たった今上がってきた、

階段の最上部だけだったそうです。

 

そして、次直と交代し、

明日に備えて眠ろうと思い、

 

着ていた作業服を脱いで、

何気に背中の部分を見ると、

 

薄っすらと『人の手形』が

付いていたそうです。

 

（終）