襖が次々と開けられていく家

ちょうど今から10年前、

中古住宅を買い引っ越した時の話です。

 

その家は元々は老夫婦が住んでいたのですが、

おばあさんが病気になり、娘夫婦の家で暮らすことになったので

売りに出されていた物件でした。

 

もう築40年を過ぎていましたので持ち主は、

「買い主は当然取り壊して新しい家を建てる」

と思っていたらしく、

 

私達が初めてその家を見に行った時には、

まだ家具がそのまま残っており、

 

すぐにでも「ただいま」と誰かが帰って来そうなほどの

生活感が残っていました。

 

実際にご夫婦とも、

特におばあさんの方はその家への愛着が深く、

 

「いつか戻りたい」と、

今でも願っていると聞きました。

 

ですが、娘さんの方は自宅の敷地内に、

ご両親用の新しい家もすでに建ててしまい、

早く処分したいようで随分と値引きをしてくれました。

 

結局、私達はその家を買い、

自分たちで手直ししながら住むことにしました。

 

引っ越した初日、深夜に寝ていると、

トイレの前の部屋の襖が力強く開けられる音がしました。

 

その時は、

(ああ、誰かトイレにでも行って間違えて開けたのかな?)

と思ったのですが、

 

目を開けて確認してみると、

家族4人全員揃って眠っています。

 

私が不思議に思っているうちに、

自分が寝ている部屋以外の襖が

次々と開けられていく音がするではないですか。

 

(次はこの部屋だ!)

 

と、恐怖で布団に潜り込み、隠れていましたが、

その部屋の襖は開けられることはありませんでした。

 

(ああ、よかった・・・)

 

そう思っているうちに、

私は眠ってしまいました。

 

翌朝も特に気にせず、

嫌な夢を見たなと思ったきり忘れてしまいました。

 

するとその晩、

また襖は次々と開けられていったのです。

 

もうこれは夢ではありません。

(今日こそ、この部屋の襖も開けられる!)

 

そう思って身構えていましたが、

その日もその部屋の襖を開けられることはありませんでした。

 

(もう夢ではない)

 

そう思った翌日は、

襖を開けるのは一体誰なのか?

 

そのことばかりを考えていました。

そして思い出したのです。

 

この家の前の住人であるおばあさんが、

家にとても執着していたことを。

 

絶対におばあさんだ。

私はそう確信しました。

 

そしてその晩、

また襖は次々と開けられていきました。

 

そうして遂にその夜、

眠っている部屋の襖が開けられたのです。

 

実際には襖が開けられた音がしただけだったのですが、

確かにバン!と、勢いよく開けられる襖の音を聞きました。

 

しかし、不思議なことに目を開けても

襖は閉じられたままでした。

 

その翌日から、どこの襖も、

もう開けられることはなくなりました。

 

きっとおばあさんが全部の部屋を見て回って、

納得されたのだと思います。

 

最後に私たちが寝ている部屋を確認して、

そうして、やっとおばあさんはこの家の住人として

私たちを受け入れてくれたんだな、そう思いました。

 

真相は確かめようもありませんが、

私は今でもおばあさんが生霊となって、

思い出深い大切な家を見に来たのだと思っています。

 

(終)

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