電話機 2/2

 

喜一には彼の言っている事が

よく分からなかったが、

 

彼も寂しがってくれていると分かったので、

少し嬉しかった。

 

『最後に聞きたいのだが、

 

この電話機の持ち主になる家は

お金持ちかい?』

 

彼が不思議なことを尋ねた。

 

「・・・?

うん、お金持ちだよ。

 

でも嫌なヤツだって

おやじが言ってたから、

 

明日からは電話しない方が

いいかもね」

 

喜一がそう教えてあげると、

 

『ハハハ・・・そうか。

それなら良かった・・・。

 

また会えるといいね』

 

彼の言葉に喜一は、

 

「まだ会ってないよ。

いつか会えるといいねだろ?」

 

そう訂正し、

最後の電話を切った。

 

翌日、

店に電話機の主人になる人が来た。

 

おやじの横で電話機を見送ると、

 

「お前、ずいぶんと電話機と

親しくなったみてぇだな」

 

喜一は心臓が飛び出るかと

思うほど驚いた。

 

「なっ、な、何のこと」

 

シラを切ろうとしたが、

おやじにはお見通しだった様だ。

 

「お前があの貧乏神と仲良く

やってくれたおかげで、

 

受け渡しまで家に災難は無かったし、

むしろ売上上々だったしな」

 

さらに喜一は驚いた。

 

「貧乏神!?あの電話が?

電話の相手は?」

 

「おめぇ、繋がらない電話に

人間が出るわけねぇだろ」

 

喜一には、電話線という物が

よく分かっていなかったのだ。

 

「ねぇ、貧乏神なんか憑いてる物

売っちゃっていいの!?」

 

喜一がハッと気付いて問うと、

 

「いくら何でも、

神さんを祓うわけにいくめぇ。

 

それに、あそこの親父は

昔から嫌なヤツだからな。

 

少し痛い目に遭えばいいさ。

 

金に困れば、

また家に売りに来るだろう。

 

その頃には福の神に

変わってねぇかなぁ」

 

クククと喉を鳴らしたおやじは、

 

大きなあくびをして

茶の間へと姿を消した。

 

喜一はあの電話の会話を

色々と回想していると、

 

思い出した様に茶の間から

顔を出したおやじが、

 

「今回は特別に泳がせてやったが、

調子に乗ってまた蔵に入るんじゃねーぞ。

 

次勝手に入ってみやがれ、

裏の木に吊すからな」

 

そう言って、

キッと喜一を一睨みすると、

 

喜一はブルっと身を強張らせた。

 

おやじの恐ろしさを改めて

思い知らされた今の喜一には、

 

充分効果があった。

 

それからあの電話機が

どうなったかは分からない。

 

じいちゃんは初めて電話線が

繋がっている電話を取る時、

 

『申し申し』

 

と、また聞こえないだろうかと

期待したもんだ、

 

と語っていた。

 

(終)

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