深夜の無人駅で10円玉を求めるおじさん

10円玉

 

10年くらい前に会った、

10円おじさんの話です。

 

当時、高校を卒業したばかりで、

仲間とカラオケに行きました。

 

一両とか二両しかない電車の通る、

無人駅の側にある小さなカラオケです。

 

土曜だったので

深夜2時に閉店なのですが、

 

酒を飲んで気持ち悪くなり、

 

外に出て無人駅の明かりの下で

酔いを冷ましていました。

 

すると、

 

赤い作業服姿のおじさんが

ヨロヨロと近寄って来て、

 

「す、すまないが10円を貸してくれ。

頼む。今すぐだ。早く」

 

・・・ああ、

何か急用で電話するんだなと思い、

 

財布の中を捜すと、

あいにく硬貨がありません。

 

携帯電話もそこそこ普及している

この時代に10円で公衆電話?

 

とは思いましたが、

 

「ちょっと友人に訊いてきますので、

そこで待っていて下さい」

 

と言った時、

変なことに気付きました。

 

赤い作業服ではなく、

 

白い作業服が胸からズボンにかけて

赤く染まっているのです。

 

よく見ると、血です。

 

しかも濡れている。

 

仰天した私は、

 

「あの、この怪我は・・・

救急車を呼んだ方が・・・」

 

と尋ねると、

 

「いや、これは何でもない。

あんたに関係ない。

 

早く10円玉を・・・」

 

と言う。

 

そのぼたぼたと作業服から落ちる滴で、

これは普通ではないと感じた。

 

それより、

 

何とも言えない不気味な感じもしたので、

その場から逃げたくも思い、

 

カラオケ店にいる友人に助けを求めようと

数メートル先の店の明かりを見ると、

 

ちょうどそこから出てくる友人達がいた。

 

彼らはこっちを見て指を差し、

 

「居た!なに~?なに言ってるの~」

 

と言いながら笑っている。

 

「ちょっと大変だ早く来て!!

 

10円玉、持ってない?

電話をしたい人がいる。

 

お店でもいい!!」

 

友人達は近づいてきて、

普通に談笑している。

 

「ねえ!!

この人を救急車で連れて行かないと!

 

連絡したいようだし、

大怪我もしているし」

 

すると友人達は不思議そうに、

 

「ん?誰?どこにいるの?」

 

「どこって、・・・あれ?

ずっとここで今さっきまで話てたんだけど・・・」

 

周りを見渡すと、どこにもいない。

 

「店の前でこっち見た時から、

一人しかおらんかったよ。

 

大声出しててさ」

 

と言う。

 

胸から腰まで血の付いた作業服を

着たおじさんだと説明しても、

 

「あんたは一人でここに立って、

大声を出していた」

 

と、友人二人ともそう言う。

 

変だ・・・

 

友人達は気味悪がるし・・・

 

ただ、その作業服一面に付いていた血は

ぼたぼたと濡れていたので、

 

あんな大怪我をしながら一瞬にして

どこに行ってしまったんだろう・・・

 

結局、分からないまま帰った、

不可解な出来事でした。

 

それから数カ月後、

おじさんの夢を2回ほど見ました。

 

「10円玉を・・・10円玉・・・」

 

おじさんはあの赤い作業服で、

10円玉を連呼していました。

 

よく分からないので翌日に、

 

駅の外に10円玉を10枚と塩を盛って、

逃げるように無人駅を後にしました。

 

その先には死亡事故が起きた、

遮断機の無い踏み切りもありますし・・・

 

しかし私は、

 

この方と実際に話していますので、

幽霊ではないと今でも信じています。

 

まさか・・・

幽霊がお話するってことはないですよね?

 

(終)

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