見届けてくれていた先生
中学生の頃の話。
受験を控えた3年生になり、
新たなクラスメイトになれた頃、
合唱コンクールが開かれることになった。
担任は、熱血理科教師で、
かなりわかりやすい授業をしてくれて
厳しいながらも生徒思いの先生だった。
コンクールは、まず学校内で
簡単な発表会を行い、
それで各学年から代表クラスが選ばれる、
という方法だった。
うちのクラスの場合、女子がやる気で、
男子はそれに乗せられつつ頑張り、
市内音楽会への切符を手に入れた。
市内音楽会前日、担任は、
「頑張れば何でも出来る、
だけど、頑張るのが難しいんだ。
お前らは頑張った。後は自分の体が覚えてるよ」
って、みんなに言った。
かなり真剣な表情だったので、
よく覚えてる。
音楽会当日。
出発間際になって、
いきなり引率の先生(担任じゃない人)が
「○○先生(担任)が入院した」
って言うんだよ。
昨日まで元気だった人が、
なんでいきなり・・・、とか思ったけど。
その先生が言うには、軽い怪我だ、
ってことで一応は安心して、
自分たちの出番になったんだよね。
それで、課題曲を歌い終えて、
自由曲の「心の瞳」ってのを歌い始めた。
担任がすごい好きで、
熱心に指導してくれた歌だった。
それで間奏の時、ふと座席の方を見たら、
担任が手を振ってて、
すごいにこやかに笑ってたんだよ。
めったに笑わない
実直な先生だったのに。
ふと、そこで思ったんだよ。
軽い怪我で入院なんかしないって。
「心の瞳で~君を見つめれば~
愛すること~それが~どんなことだか~
わかりかけてきた~」
曲が盛り上がってるとき、
隣のやつが泣いてるんだよ。
俺も、もしかしたらっていうか、
かなり直感的にそう思ってた。
歌い終わって、みんな、
○○先生いたよね、いたよねって話してて、
俺は、泣いてた隣のやつと無言で座ってたんだ。
みんな先生を探すんだけど、
いないんだ。
絶対、笑ってたのに。
学校に帰って、帰る準備してると
教頭先生が教室に来て、
「○○先生が、先ほど亡くなられました」って。
みんな、泣いたよ。
むしろ、信じたくなかった。
なんでも、音楽会前日、
車で帰る途中に飛び出した子供を避けて、
思いっきり電柱にぶつかって、
助け出されたときは虫の息だったらしい。
葬式の時、自分らの願いと、
先生の親御さんの承諾で
「心の瞳」歌ったんだよ。
そのとき遺影に写る先生が、
少しだけ笑って褒めてくれた気がした。
(終)