好奇の目で見て次々に走り去っていく奴ら

山道

 

小学3年の時、俺たち家族を乗せた車が事故に遭った。

 

中央線を無視して突っ込んで来た対向車を避けて崖に激突したのだ。

 

運転席の母はハンドルの上に頭を突っ伏していて、腕がだらんとして動かない。

 

後部座席の婆ちゃんは、運転席のシートの頭部分に頭がめり込んでいて動かない。

 

同じく後部座席に居たはずの妹は居なくなっていて、座席の下にうつ伏せで動かない。

 

助手席の俺は、妙なところに足が挟まって動けない。

 

ボンネットは原型が無くなって黒い煙がもうもうと立ち込めていて、フロントガラスはクモの巣状態。

 

頭を怪我した二人の血が飛び散っていて、車内は血まみれ。

 

道幅の広い山道で車通りは多かったが、人は全く歩いてなく、民家も見当たらない所だった。

 

パニックになった俺は、ただただ泣き叫ぶしかなかった。

 

全てにおいて恐怖が勝つと、単語なんて出てこなかった。

 

そんな状況の中、何が一番怖かったかと言えば・・・。

 

それは、車通りが多い所だったのに、誰一人として車を止めて助けてくれなかったことだ。

 

血まみれの車内から見えた、こっちを好奇の目で見て次々に走り去ってく奴らの顔が今でも忘れられない。

 

結局は15分後ぐらいに、奇跡的に登山をしていた兄ちゃん達が俺の泣き声に気づいてくれて救出された。

 

母は派手に出血していたわりに傷は浅く、数針頭を縫うだけで済んだ。

 

妹も数針を縫った。

 

俺は足の捻挫だけ。

 

婆ちゃんは頭蓋骨陥没で死んでしまった。

 

突っ込んで来た相手の車は、老夫婦が運転していた。

 

そして今でも覚えているのは、運転していた爺さんは”いかにもアルコール入ってます”的な真っ赤な顔をしていて、搬送された病院で会った時、俺達にへこっと軽く頭下げると、俺に「おお、ボク、大丈夫だったかぁ~。はは、良かった良かった」と、ヘラヘラしながら言ったことだ。

 

(終)

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