クラスメイトの家へ遊びに行ったら 1/2

私には霊感がありません。

 

ですから、

 

幽霊の姿を見たことはないし、

声を聞いたこともありません。

 

それでも、

 

ものすごく怖い思いを

たった一度だけ、

 

中学生の時に体験しました。

 

その話を聞いてください。

 

14歳の頃に父を亡くした私は、

母の実家へ引っ越すことになりました。

 

母方の祖父は

とうに亡くなっていたので、

 

祖母、母、私だけの、

女3人の暮らしとなります。

 

私は父が死んだショックから

立ち直れないまま、

 

新しい環境に早く馴染まなくては

いけませんでした。

 

不安はあったのですが、

私の身の上に同情してか、

 

転校先のクラスメイトも

優しく接してくれました。

 

特にS子という女の子は、

 

転校してきたばかりの私に

大変親切にしてくれ、

 

教科書を見せてくれたり、

話し相手になってくれたりしました。

 

彼女と親友になった私は、

自然と周囲に心を開いてゆき、

 

2ヶ月も経つ頃には、

みんなでふざけあったり、

 

楽しく笑いあったりも

出来るようになりました。

 

さて、

 

そのクラスにはF美という、

可愛らしい女の子がいました。 

 

私は彼女に何となく、

心惹かれていました。

 

もちろん変な意味ではなく、

 

女の子が見ても可愛いなあ

と思えるような、

 

小柄できゃしゃな感じの

女の子だったので、

 

同性として好意を持っていたのです。

 

(私はちょっと地黒で

背も高かったので、

 

今考えると多少の羨望も

おそらくあったのだと思います)

 

好かれようとしていると

効果はあるもので、

 

席替えで同じ班になったことから

だんだんと話すようになり、

 

彼女が母子家庭であることが分かって、

余計に親しくするようになりました。

 

もっとも、

F美のところの場合は、

 

死に別れたのではなくて、

父親が別の女性と逃げたとか、

 

そういうことだったように

聞いていました。

 

彼女も女だけで生活している

ということを知った時、

 

この子と友達になって良かったなと、

心底思いました。

 

ただそれも、

 

彼女の家に遊びに行くまでの

短い間でしたが・・・。

 

その日、

 

私が何故、F美の家を

訪ねることになったのか、

 

私は覚えていません。

 

随分と昔の話だから

というのもありますが、

 

それよりも、

 

彼女の家で見たものが、

あまりに強い印象を残したので、

 

そういった些細なことが

あやふやになっているのでしょう。

 

その時はS子もいました。

 

それまでもS子はF美のことを

あまり好いておらず、

 

私が彼女と仲良くすることを、

好ましくは思っていないようでした。

 

それなのに、

何で彼女が付いて来たのか、

 

私には思い出せません。

 

とにかく学校の帰り、

 

家が全然別の方向なのにも

かかわらず、

 

私とS子は何かの用事で

F美の家に寄ったのでした。

 

彼女の家は正直、

古さの目立つ平屋で、

 

木造の壁板は反り返り、

庭はほとんどなく、

 

隣家との間が50センチもないような

狭苦しい場所にありました。

 

私はちょっと驚きましたが、

 

おばあちゃんの家も

年季は入っていますし、

 

家計が苦しいのは

しょうがないだろうと思って、

 

自分を恥ずかしく思いました。

 

「おかあさん」

 

F美が呼ぶと、

 

少しシワは目立つものの、

 

奥からにこやかな顔をした

綺麗なおばさんが出てきて、

 

私とS子にこちらが恐縮するほどの

深々としたおじぎをしました。

 

洗濯物を取り込んでいたらしく、

手にタオルや下着を下げていました。

 

「お飲み物、

持って行ってあげる」

 

随分と楽しそうに言うのは、

 

家に遊びに来る娘の友達が

少ないからかも知れない、

 

と私は思いました。

 

実際にF美も、

 

「家にはあんまり人は呼ばない」

 

と言ってましたから。

 

もしF美の部屋が、

 

あんまり女の子らしくなくても

驚くまいと、

 

私は自分に命じました。

 

そんなことで優越感を持ってしまうのは

嫌だったからです。

 

しかし、

彼女の部屋の戸が開いた時、

 

目に飛び込んできたのは、

予想もつかないものでした。

 

F美が綺麗だということは

お話ししましたが、

 

その分やはり、

 

お洒落には気を使っている

ということです。

 

明るい色のカーテンが下がり、

机の上にぬいぐるみが座っているなど、

 

予想以上に女の子らしい部屋でした。

 

たった一点を除いては・・・。

 

部屋の隅に立っていて、

こっちを見ていたもの。

 

マネキン。

 

それは間違いなく、

男のマネキンでした。

 

その姿は今でも忘れられません。

 

両手を曲げて縮め、

Wの形にして、

 

こちらを真っ直ぐと見つめて

いるようでした。

 

マネキンの例にもれず、

顔はとても整っているのですが、

 

その分だけその視線が余計に、

生気のない虚ろなものに見えました。

 

マネキンは真っ赤なトレーナーを着て、

帽子を被っていました。

 

不謹慎ですが、

 

さっき見たおばさんが

身に付けていたものより、

 

よほど上等な物のように

思えました。

 

「これ・・・」

 

S子と私は唖然として

F美を見ましたが、

 

彼女は別段意外な風でもなく、

マネキンに近寄ると、

 

帽子の角度をちょっと触って

調節しました。

 

その手つきを見ていて、

私は鳥肌が立ちました。

 

「かっこいいでしょう」

 

そうF美は言いましたが、

何だか抑揚のない口調でした。

 

その大して嬉しそうでもない言い方が、

余計にぞっと感じました。

 

「ようこそいらっしゃい」

 

と言いながら、

 

トレーにケーキと紅茶を乗せて

おばさんが入ってきて、

 

空気が救われた感じになりました。

 

S子も私と同じく、

場を持て余していたのでしょう。

 

S子が手を伸ばし、

お皿を座卓の上に並べました。

 

私も手伝おうとしたのですが、

お皿が全部で4つありました。

 

あれ?

 

おばさんも食べるのかなと思い、

ふと手が止まりました。

 

その時、

 

おばさんがケーキと紅茶の

お皿を取ると、

 

にこにこと笑ったまま、

F美の机の上に置きました。

 

そこは、

マネキンのすぐ傍でした。

 

とんでもないところに来た・・・

と私は思いました。

 

服の中を、

 

自分ではっきりそれと分かる

冷たい汗が流れ続け、

 

止まりませんでした。

 

F美はじっと、

 

マネキンの傍に置かれた

紅茶の方を凝視していました。

 

こちらからは、

彼女の髪しか見えません。

 

しかし、突然前を向いて、

 

何事もなかったかのように

フォークでケーキを突き、

 

お砂糖の壷を私たちに

回してきました。

 

私はマネキンについて

聞こうと思いました。 

 

彼女たちは、

あれを人間扱いしているようです。

 

しかも、

 

ケーキを出したり

服を着せたりと、

 

上等な扱い様です。

 

ですが、

 

F美もおばさんも、

 

マネキンに話しかけたりは

していません。

 

彼女たちは、

あれを何だと思っているのだろう?

 

と考えました。

 

マネキンの扱いでは

断じてありません。

 

(続く)クラスメイトの家へ遊びに行ったら 2/2へ

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