クラスメイトの家へ遊びに行ったら 2/2

しかし、完全に人だと

思い込んでいるのだとしたら、

 

『彼』とか、

『あの人』とか呼んで、

 

私たちに説明するとか

しそうなものです。

 

でも、そうはしない。

 

そのどっちともとれない

中途半端な感じが、

 

ひどく私を不快にさせました。

 

私がマネキンのことについて尋ねたら、

F美は何と答えるだろう。

 

どういう返事が返ってきても、

 

私は叫び出してしまいそうな

予感がしました。

 

どう考えても普通じゃない。

 

何か話題を探しました。

 

部屋の隅に鳥かごがありました。

 

マネキンのこと以外なら何でもいい。

 

普段の学校で見るような

F美を見さえすれば、

 

安心出来るような気がしました。

 

「トリ、飼ってるの?」

「いなくなっちゃった」

 

「そう・・・かわいそうね」

「いらなくなったから」

 

まるで、

無機質な言い方でした。

 

飼っていた鳥に対する愛着など、

微塵も感じられない。

 

もう出たいと思いました。

 

帰りたい・・・帰りたい・・・。

 

ここはやばい。

 

長く居たらおかしくなってしまう。

 

その時「トイレどこかな?」と、

S子が立ち上がりました。

 

「廊下の向こう、外出てすぐ」

 

とF美が答えると、

 

S子はそそくさと

出て行ってしまいました。

 

その時は正直、

私は彼女を呪いました。

 

私はずっと下を向いたままでした。

 

もう、たとえ何を話しても、

 

F美と意思の疎通は無理だろう

ということを確信していました。

 

ぱたぱたと足音がするまで、

 

とても長い時間が過ぎたように

思いましたが、

 

実際にはほんの数分だったでしょう。

 

S子が顔を出して、

 

「ごめん、帰ろう」

 

と私に言いました。

 

S子の顔は青ざめていました。

 

F美の方には絶対に目を

向けようとしないのでした。

 

「そう、おかえりなさい」

 

とF美は言いました。

 

そのずれた言い方に、

卒倒しそうでした。

 

S子が私の手をぐいぐい引っ張って、

外に連れ出そうとします。

 

私はそれでもまだ、

 

形だけでもおばさんにおいとまを

言っておくべきだと思っていました。

 

顔を合わせる勇気はありませんでしたが、

奥に声をかけようとしたのです。

 

F美の部屋の向こうにある襖が、

20センチほど開いていました。

 

「すいません、失礼します」

 

よく声が出たものです。

 

その時、

隙間から手が伸びてきて、

 

ピシャッ!と勢いよく

襖が閉じられました。

 

私たちは逃げるように、

F美の家を出て行きました。

 

帰り道、

 

私たちは夢中で自転車を

漕ぎ続けました。

 

S子が終始私の前を走り、

 

1メートルでも遠くへ行きたい

とでもいうかのように、

 

何も喋らないまま、

 

自分たちのいつもの帰り道まで

戻っていきました。

 

やっと安心出来ると思える

場所に着くと、

 

私たちは飲み物を買って、

一心不乱に喉の渇きを癒しました。

 

「もう付き合うのはやめろ」

 

とS子が言いました。

 

それは言われるまでも

ないことでした。

 

「あの家やばい。

F美もやばい。

 

でもおばさんがおかしい。

あれは完全に・・・」

 

「おばさん?」

 

トイレに行った時のことを

S子は話しました。

 

S子がF美の部屋を出た時、

隣の襖は開いていました。

 

彼女は何気なしに

通り過ぎようとして、

 

その部屋の中を

見てしまったそうです。

 

マネキンの腕・・・

 

その腕が、畳の上に4本も5本も

ゴロゴロと転がっていたそうです。

 

そして、

 

傍らで座布団に座った

おばさんが、

 

その腕の一本を、

狂ったように嘗めていたのです。

 

S子は震えながら用を足し、

 

帰りに恐る恐る

襖の前を通りました。

 

ちらと目をやると、

 

こちらをじっと凝視している

おばさんと目が合ってしまいました。

 

つい先刻の笑顔は

その欠片もなくて、

 

目が完全に据わっていました。

 

マネキンの腕があったところには、

畳んだ洗濯物が積まれてありました。

 

その中に、

男物のパンツが混じっていました。

 

「マ、マネキンは・・・?」

 

S子はつい、

 

そう言ってしまったと

思ったのですが、

 

おばさんは何も言わないまま

S子に向かって、

 

またにっこりと

笑顔を見せたのでした。

 

彼女が慌てて私を連れ出したのは、

その直後のことでした。

 

あまりにも不気味だったので、

 

私たちはF美が喋って来ない限り、

話をしなくなりました。

 

そして、だんだんと疎遠に

なっていきました。

 

この話をみんなに広めようかと

考えたのですが、

 

到底信じてくれるとは思えません。

 

F美と親しい子にこの話をしても、

 

傍目からは私たちが彼女を

孤立させようとしている、

 

としか思われないに決まっています。

 

特に、S子がF美とあんまり

仲が良くなかったことは、

 

みんな知っていますから・・・。

 

F美の家に行ったという子に、

こっそり話を聞いてみました。

 

でも一様に、

 

「おかしなものは見ていない」

 

と言います。

 

だから余計、

私たちに状況は不利だったのです。

 

ただ一人だけ、

これは男の子ですが、

 

「そういえば妙な体験をした」

 

という子がいました。

 

F美の家に行ってベルを押したが、

誰も出て来ない。

 

あらかじめ連絡してあるはずなのに・・・

と困ったが、

 

とにかく待つことにした。

 

もしかして、

奥に居て聞こえないのかと思って、

 

戸に手をかけたらガラガラと開く。

 

そこで、

彼は中を覗き込んだ。

 

襖が開いていて、

部屋の様子が見えた。

 

(S子が見た部屋と同じか

どうかは分かりません)

 

浴衣を着た、

男の背中が見えた。

 

あっちに向いて、

あぐらをかいている。

 

音声は聞こえないが、

テレビでもついているのだろう。

 

背中にブラウン管かららしい

青い光が差して、

 

時折点滅している。

 

だが何度呼びかけても、

 

男は振り返りもしないどころか、

身動き一つしない・・・。

 

気味が悪くなったので、

そのまま家に帰った。

 

F美の家に、

男は居ないはずです。

 

たとえ親戚やおばさんの

知り合いであったところで、

 

テレビに背中を向けて、

じっと何をしていたのでしょう?

 

それとも、

 

男のパンツは彼のもの・・・

だったのでしょうか。

 

もしかしてそれは、

 

マネキンではないのかと、

私は思いました。

 

しかし、

 

あぐらをかいているマネキンなど、

あるものでしょうか。

 

もしあったとすれば、

 

F美の部屋にあったのとは、

別の物だということになります。

 

あの家にはもっと他に何体も

マネキンがある・・・。

 

私はこれ以上、

考えるのは止めにしました。

 

あれから14年が経ったので、

 

今では少し冷静に

振り返ることが出来ます。

 

私は時折、

 

地元とは全く関係ないところで、

この話をします。

 

一体あれが何だったのかは、

正直今でも分かりません。

 

もしF美たちがあれを内緒に

しておきたかったとして、

 

仲の良かった私だけならまだしも、

なぜS子にも見せたのか、

 

どう考えても納得のいく答えが

出ないように思うのです。

 

そういえば、

 

腕をWの形にしているマネキンも、

見たことがありません。

 

それだと服を着せられない

のではないですか。

 

しかし、あの赤い服は、

 

マネキンの身体にピッタリと

合っていました。

 

まるで、

自分で着たとでも言う風に・・・。

 

これが私の体験の全てです。

 

(終)

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One Response to “クラスメイトの家へ遊びに行ったら 2/2”

  1. 匿名 より:

    お前をマネキンにしてやろうか!

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