歌を口ずさみながら山道を下っていると

山道

 

これは、田舎で暮らす友人から聞いた話です。

 

彼は田舎で工務店に勤めており、数年前の4月頃、会社が所有する山へ木材を確認しに行ったそうです。

 

木の周りを巻尺で測り、何年か前のリストと比較してみると、かなり良い具合に木が成長しているようでした。

 

「この具合なら良い値段で木が売れるな」

 

そう思った彼は機嫌も良くなり、歌を口ずさみながら作業を終えて帰途に着きました。

 

そうして帰りの山道を下っていると、後ろの方から人の声が。

 

「もしや材木泥棒か?」

 

少し警戒した彼は茂みに隠れて様子を伺っていると、声はだんだんとはっきり聞こえてきました。

 

その声は、歌を歌っているようなでした。

 

ただ、聞き覚えのある声だな・・・と思ったそうです。

 

それもそのはず、その声は『自分の声』だったのです。

 

自分の後ろから声だけが歌を歌いながら追いかけてきて、隠れている彼の前を通り過ぎて行きました。

 

しかし、体が固まっている彼の前を通り過ぎて声が聞こえなくなった頃、立ち上がって急いで帰ろうと踏み出した彼の耳元で、誰かがボソッとこう言ったそうです。

 

「なかなか上手いじゃないか」

 

その瞬間、彼は転げるようにして逃げ帰ったそうです。

 

(終)

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