公衆トイレの個室から見てしまったもの

公衆トイレ

 

真一は、朝から腹の具合が

よくなかった。

 

近所の公園に犬を散歩

させるために行った時、

 

猛烈な腹痛に襲われた。

 

「ヤバイ!出そう!

出ちゃう!」

 

真一は、公園の公衆トイレに

駆け込んだ。

 

お世辞にも、手入れが

行き届いている・・・

 

とは言えないこのトイレで

用を足すのは、

 

潔癖な真一にとって

屈辱的だった。

 

「クソ!

なんでこんなに汚いんだよ。

 

しかも和式かよ!」

 

真一は和式トイレが大嫌いだった。

 

しかし、

 

キリキリと痛む腹の前に、

降伏せざるを得なかった。

 

和式トイレで不安定な格好で

用を足していると、

 

もう一人のお客が入ってきた。

 

この公園のトイレは、

 

やや奥まった人気の無い

ところにあり、

 

実際にハッテン場としても

使われることがあるという。

 

※ハッテン場

男性同性愛者の出会いの場所。

 

噂も実しやかに囁かれているため、

真一は身構えた。

 

個室のドアと壁の

隙間から覗くと、

 

30代半ばくらいの

中肉中背の男が、

 

大きな麻袋を持って

小便をしているのが見えた。

 

「良かった・・・

ホモの人じゃない」

 

真一は安心して出ようとした。

 

しかし、

 

そのとき再び便意が

襲って来たのである。

 

「またかよ・・・」

 

真一は再び情けない格好で、

便器にしゃがみ込んだ。

 

今度は長くなりそうだった。

 

ふと、真一は、

外の男のことが気にかかった。

 

もう一度、

 

壁と扉の隙間から

覗いて見て、

 

真一は思わず叫びそうになったが、

必死で堪えた。

 

なんと、外の男が、

 

麻袋の中から女性の死体を

引きずり出していたのだ。

 

真一は細い隙間から

目を離せなくなった。

 

男は個室に真一がいることに

気付いていないようである。

 

女性の死体の次に、

 

男は鋭利なナイフと

ノコギリを取り出した。

 

そして、女性の首に

ナイフを突きつけると、

 

一気に引いた。

 

女の首にパックリと裂け目ができ、

そこから血がどろりと流れ出た。

 

「この男・・・」

 

真一は、この男が何をしようと

しているか理解した。

 

男はここで女性を解剖しようと

しているのである。

 

真一は、

事の異常さに驚愕した。

 

どうやら男は

気付いていないようである。

 

絶対に音を立ててはならない。

 

男が全て終えて、

このトイレを出て行くまで・・・。

 

男は女性の首をナイフ一本で

器用に切断した。

 

まるで、魚をさばくかのような

手際の良さだ。

 

「こいつ、慣れてるのか?」

 

真一は改めて恐怖を憶えた。

 

その時、

またしても真一の腹が暴れ出した。

 

「くそ!こんな時に・・・」

 

真一はどうすべきか迷った。

 

今、便をしたら音が出て

しまうかも知れない。

 

そうなったら男に気付かれてしまう。

 

しかし、

腹は限界を迎えていた。

 

真一の額は冷たい汗で

いっぱいだった。

 

その時、

 

遠くから飛行機がやってくる

轟音が響いてきた。

 

米軍基地から飛び立った

戦闘機である。

 

真一は町の米軍基地に

初めて感謝した。

 

戦闘機の音が真一の排泄音を

掻き消しているうちに、

 

真一は全てを出し切った。

 

しかし、

流石に水を流すのは躊躇われた。

 

排泄が終わり、

真一は落ち着きを取り戻した。

 

見ると、女性は半分ほど

バラバラにされていた。

 

吐き気がするほどの

凄惨な光景であったが、

 

自分自身の命がかかっている。

 

身動き一つせず、

じっと見つめていた。

 

ふいに、

男の手が止まった。

 

『・・・何か臭うぞ』

 

男は低い声でそう呟いた。

 

「マズイ!

俺の落とし子の臭いだ!

 

バレル・・・!」

 

真一はその時、

死を覚悟した。

 

せめて下半身丸裸では

死にたくないと思い、

 

急いでズボンをはいた。

 

それまでしゃがみ込んで

解剖に勤しんでいた男が、

 

ゆらりと立ち上がった。

 

「助けて!

まだ死にたくない!」

 

真一は祈って目を閉じた。

 

『ハハハ・・・』

 

真一はびっくりして目を開いた。

 

扉は開いていない。

 

上から覗いているのかと思い、

恐る恐る上を見たが、

 

上にもいない。

 

真一はもう一度、

壁と扉の隙間から外を覗いた。

 

男は立ったまま笑っていた。

 

「こいつ、こんなに糞が

溜まっていやがる。

 

どおりで臭うはずだぜ」

 

良かった・・・

勘違いしてくれたみたいだ。

 

真一はホッと胸を撫で下ろした。

 

しかし、

 

気の緩みに乗じて、

プッとおならが漏れてしまった。

 

途端に男がキョロキョロと

辺りを見渡し始めた。

 

「やばい、

今度こそ殺される・・・」

 

真一は、

気を緩めた自分を呪った。

 

『何だ、今の音は?』

 

男は低い声で呟いた。

 

その時、

 

ちょうどトイレの前を

猫が通りかかった。

 

『何だ、猫か・・・、

脅かしやがって』

 

男は安心したようで、

解剖を再開した。

 

「ふぅ・・・

また助かった。

 

このまま何事もなく

終わってくれ・・・」

 

真一は、すでに全身

汗びっしょりだった。

 

どれくらい時間が

過ぎただろう。

 

男は解剖を終えると、

 

持って来た麻袋に、

 

すでに肉塊と化した

女性を詰め込むと、

 

血で汚れた床を水で洗い、

出て行った。

 

それから暫く、

真一は動けなかった。

 

やがて、

 

「ああ、やっと出て行った。

俺は助かったんだ。

 

この町に殺人鬼がいるなんて

信じられないし恐いけど、

 

でも俺は助かったんだ!」

 

そう叫ぶと、

 

真一はドアをバタンと開けて、

外へ飛び出した。

 

まぶしい太陽、

 

日の光を浴びて輝く

木の葉、

 

全てが美しく見えた。

 

公園の入り口に繋いでいた

犬を連れて帰路に着こうとする

 

真一の肩を誰かが叩いた。

 

振り向くと、先ほどの男が

笑顔で立っていた。

 

(終)

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One Response to “公衆トイレの個室から見てしまったもの”

  1. 匿名 より:

    こえぇ…

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