憎しみはたくさんの人間を苦しめる

1人のアメリカ人の男が、

東南アジアのある国を訪れていた。

 

男は知人の家へ行くために

三輪トラックを借り、

 

現地の人間を雇って

運転させた。

 

男自身は沢山のお土産と共に、

トラックの荷台に乗った。

 

荷物が落ちないように

見張るためであったが、

 

男は景色を広い視野で

見たかったので、

 

悪い気はしなかった。

 

出発から1時間ほど経って、

トラックはスラム街に差しかかった。

 

そこでは多くのストリートチルドレンたちが

暮らしていた。

 

皆やせ細り、

服もボロボロだった。

 

教育もまともに受けては

いないだろう。

 

彼らは男をじっと見つめていた。

 

男は彼らにひどく同情したので、

お土産の1つのダンボールを開け、

 

走りながら中身のチョコレートを

ばら撒いた。

 

男は走り去りながら、

 

ストリートチルドレンがチョコを拾って

食べる様子を見て満足していた。

 

3ヶ月後、

男はまた同じ国を訪れ、

 

トラックを借り、

現地人を雇い、

 

荷台に乗って

知人の家に向かった。

 

そして、

 

トラックは1年前と同じ道を通り、

スラム街に入った。

 

ただ一つ違うのは、

 

今回はお土産を持っていない

ということだった。

 

ストリートチルドレンたちは

男とトラックに気づくと、

 

じっとその行方を見守っていた。

 

男は彼らに感謝されている

と思っていた。

 

しかし現実は違った。

 

ストリートチルドレンたちは、

男が食べ物をくれないと分かると、

 

トラックの進行を妨害し出した。

 

そして荷台に乗り込み、

 

男の唯一の荷物のリュックを奪って、

逃げて行った。

 

財布やパスポートなどの

貴重品が入っていた。

 

男は憤慨した。

 

恩を仇で返された。

 

道徳を学んでいないことは

罪である。

 

無学は愚かだ。

 

言い様のない怒りが

男の心を占領した。

 

更に半年後、

 

男はまた東南アジアの

その国を訪れていた。

 

一度ひどい目に遭わされて

いたのにだ。

 

トラックを借りた。

 

現地人を雇った。

 

荷台に乗った。

 

今回は沢山のダンボールを

抱えていた。 

 

しかし、

それは知人へのお土産ではない。

 

男は運転手にスラム街へ

向かわせた。

 

男は期待と興奮で

胸を高鳴らせていた。

 

スラム街に着くと、

男は大きな声で叫んだ。

 

その国の挨拶の言葉だ。

 

ストリートチルドレンにだって

理解出来た。

 

彼らは男の元へ集まって来た。

 

男は荷台のダンボールを開け、

素早く中身をばら撒いた。

 

それはたくさんの消しゴムとクレヨン、

そして液体の糊だった。

 

男は半年前帰国してから、

 

これらをストリートチルドレンたちに

ばら撒くことが、

 

男にとって本当の幸せを届けると

思いついたのだった。

 

走り去りながら、

 

消しゴムやクレヨン、

液体の糊を拾うストリートチルドレンを見て、

 

男は心から笑った。

 

男からは爽快感が溢れていた。

 

これを読んだ人々が、

 

憎しみは沢山の人間を

苦しめるということを、

 

理解してくれるのを願う。

 

（終）

解説

男はわざと「食べられない物」

を振り撒いた。

 

つまり、

チルドレンたちは、

 

チョコのように消しゴムやクレヨン、

液体の糊を「食べる」だろう。

 

憎しみは沢山の人を苦しめるのだ。