幽霊列車の果実は食べてはいけない

貴婦人

 

これは、久しぶりに『幽霊列車』に乗ったときの話。

 

乗ってから20分ほど経った頃、右耳のない知り合いのおっさんと世間話をしていると、駅で“黒い日傘を差した貴婦人”が乗ってきた。

 

その貴婦人は、まっすぐ俺のところへ歩いてきて、鞄から一枚の絵を取り出し、「この絵は何に見えますか?」なんて聞いてきた。

 

絵は、白い紙に墨汁を無造作に垂らしたようなもので、特に何かをモチーフにしている様子はなかった。

 

とりあえず少しの間、その絵とにらめっこした後、網で焼いた肉の焦げ目に見えなくもなかったので、素直にそう答えた。

 

すると貴婦人は絵を鞄にしまい、しばらく鞄の中を探るような仕草をすると、「差し上げます」と言って、ザクロをひとつ差し出してきた

 

そのまま別の車両へと歩いていく貴婦人の背中を見送りながら、「そういえば、ザクロって食べたことなかったな」と、ぼんやり考えていた。

 

すると今度は、別の女性が話しかけてきた。

 

白い髪をポニーテールに結んだ、巫女服の若い女性だった。

 

彼女は、「そのザクロが好物なので、譲ってほしい」と言ってきた。

 

その女性には以前、死にかけていたところを助けてもらった恩もあったし、ザクロに特別な興味があったわけでもなかったので、あまり深く考えずに彼女に渡した。

 

ザクロを受け取った彼女は、嬉しそうに微笑み、そしてふっと消えてしまった。

 

「あの人、いつも突然現れては、突然消えるな……」

 

そんなふうに思っていたら、今まで黙っていたおっさんが口を開いた。

 

「兄ちゃん、助かったなぁ。あのザクロ、食ってたら帰れんくなってたで」

 

おっさんの隣では、黒猫が俺の方を指差して、ゲラゲラ笑っていた。

 

もし、あなたも幽霊列車に乗ることがあったら、“向こう側”に引き込まれないように気をつけてくれ。

 

(終)

AIによる概要

この話が伝えたいことは、現実と非現実の境界が曖昧になるような奇妙で不思議な体験を通じて、「選択ひとつで運命が変わることがある」ということです。

語り手は、偶然出会った貴婦人から意味のわからない絵を見せられ、特に深く考えずに答えたことが、思わぬ贈り物のザクロを引き寄せます。さらにそのザクロを、恩のある女性に譲ったことで、後から「もし食べていたら帰れなくなっていた」と知らされます。この一連の流れから、「無意識のうちに選んだ行動が、自分の運命を分けていた」ことに気づかされるのです。

また、出来事の舞台が“幽霊列車”という現実から少しずれた世界であることから、「この世とあの世」の境界や、「人間が踏み込むべきでない領域」に足を踏み入れてしまうことへの警告のようにも感じられます。軽い気持ちで接したものが、実は生死を分けるような重要な選択だった、そんな教訓めいた含みがあります。

つまりこの話は、日常に潜む不思議や、無意識の選択が持つ重み、そして人知を超えた世界に対する畏れを、ユーモアや不可思議さを交えて語っている出来事だと言えるでしょう。

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