コッケさんという地神さんの話 2/2

井戸

 

年が明けて、

1月28日の深夜。

 

いくら何でも、

 

水番が自分の息子を殺すのを

容認は出来ませんので、

 

このことは村全体で考えよう、

 

と談判していたところ

だったのですが、

 

水番の妻が泣きながら

世話役の家に走り込んで来て、

 

亭主が首を括ったので

来てくれ、

 

と言うのです。

 

水番の家に行くと、

 

井戸の上に「井」の字に

竹を渡して、

 

そこから首を吊るすように

絶命している水番がいました。

 

あまりの酷さに、

 

世話役たちが顔を

背けていると、

 

水番の息子が傍らから

世話役の袖を引いて、

 

「見ましたか!見ましたか!」

 

と目をらんらんと輝かせて

尋ねるのだそうです。

 

この子はもはや正気ではない、

とは分かっていました。

 

が、当時の解釈では、

 

これは、水番の

相反する気持ちが、

 

子の魂は滅ぼしても、

 

子の肉体は母のために

生かしておいてやりたい、

 

という願いになり、

 

親子の魂が入れ替わったのだ、

というのが支配的でした。

 

間引きのために、

 

子供を殺したことは

ありませんでしたが、

 

この時、村で初めて、

 

この子供を「殺そう」という

結論が出たのだそうです。

 

横糸を斜めに織った

長い綿布で首を包んで、

 

布に少しずつ水を吸わせて、

 

誰も手をかけないうちに殺そう、

ということになりました。

 

しかし、

そこは素人考えですので、

 

首は絞まっても、

なかなか絶命しません。

 

子供は父と同じ顔で、

 

「誰じゃ、食ったのは誰じゃ」

 

と声を上げていました。

 

恐れおののいた村人は、

 

父が死んだのと同じように

井戸に竹を渡し、

 

そこから子供の首を

吊るしました。

 

もの凄い形相で睨むので、

 

まぶたの上から縦に

竹串を通しました。

 

結局、その子供は、

 

数日糞便を垂れ流して

暴れたのち、

 

絶命しました。

 

その明けた年は、

飲み水から病気が発生し、

 

多くの人が命を失いました。

 

さらに、

 

本当に穀物を食ったのが

この子供ではなく、

 

世話役の13になる子供だった

ことが分かったのだそうです。

 

この時、

世話役は躊躇なく、

 

わが子を同じ方法で

吊るしたのだそうです。

 

明くる年の1月28日

のことだそうです。

 

「・・・というわけで、

 

1月28日はコッケさんの日に

なったんですよ」

 

「はー、なるほど。

命日なわけな」

 

うちで飯を食べてもらいながら、

 

彼女(指副担の姪っこ)

教えてもらいました。

 

「だから固芥忌(コケキ)って

言うのが正しいんですよ」

 

「運動会の行事も、

意味が分かると酷いね」

 

・・・村人全員で子供を

絞める儀礼ですからね。

 

本来、こういう形で優しく

弔ってあげたのに、

 

という偽善ですよね」

 

「うん」

 

「・・・あとですね、これ、

私一人で気付いたんですけど」

 

彼女はペンを取って、

 

チラシの裏に「芥」の字を

書きました。

 

「おお、28やん。

俺も今、気付いた」

 

くさかんむりと、

その下の八の字で、

 

二十八と読めます。

 

「え?」

 

彼女はきょとんと

していました。

 

「いやだから、

 

にじゅうとはちで、

その命日を表してるんでしょ?」

 

「・・・ほんとだぁ」

 

「え、違うの?」

 

「いや、

 

そっちが正しいんですよね、

たぶん・・・」

 

「何よ、教えてよ」

 

「いや、いいです」

 

しばらく押し問答した末、

 

彼女は折れて、

文字を書き足しました。

 

「これね、縦書きなんですよ」

 

 

「目を潰された子供が、

 

竹の枠に首から下がってるの

分かるでしょ?」

 

(終)

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One Response to “コッケさんという地神さんの話 2/2”

  1.   より:

    何度見ても分からん

  へ返信する

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