お地蔵様を壊した走り屋の顛末

 

当時、峠を車で走る、

いわゆる走り屋をやっていた先輩が、

 

いつものように峠を愛車で

走っていたそうです。

 

何度か往復した後に

最後の一本と思い、

 

再び走り出したところ、

 

あるカーブで曲がり切れずに

脇の草むらに突っ込んだそうで・・・。

 

その際に『ゴツッ』と、

鈍い音が聞こえたそうです。

 

先輩は車の損傷程度を確認するため、

すぐに車を降りたのですが、

 

今まで経験したことがないような

寒さを感じたそうです。

 

車を降りた後、

フロントバンパーを確認したのですが、

 

音の割には僅かな損傷

だったそうです。

 

よかったと胸を撫で下ろした時、

ある物に気づいたそうです。

 

ゴツゴツした丸い石と細長い石が

車の前方に転がっていました。

 

「こいつに当たったのか?」

 

と口ずさみながら近づいて

よく見ると、

 

それは頭と体が取れた、

無惨な姿のお地蔵様でした。

 

先輩は無神経な人なので、

お地蔵様の体を立てて、

 

その上に頭を無造作に乗せて

帰路に着いたそうです。

 

時間は深夜2時30分過ぎでした。

 

その後、

異変はすぐに起きました。

 

運転中にハンドルいっぱいに

男の顔が浮かび上がり、

 

ずっとこちらを見ていたそうです。

 

その顔は恨めしそうに見ており、

 

先輩は怖くて逃げようと

思ったらしいのですが、

 

なぜかここで逃げると殺される!

と感じたそうです。

 

なぜならば、

 

逃げようと思うと首を絞められる

感じがしたからだそうです。

 

先輩は平常心を心がけ、

家に向かいました。

 

先輩が家に帰るまでの間に、

様々な異変が起きたそうです。

 

突然ラジオが鳴りだしたり、

車内灯が点灯したりと、

 

それでも運転を続けました。

 

そしてある緩やかなカーブに

差し掛かった時、

 

そのカーブの途中に老夫婦が

並んで立っており、

 

通りゆく車を1台1台と

見ていたそうです。

 

普通なら街灯もない夜道に

老夫婦がいるわけもないし、

 

遠くから見えるわけもない。

 

しかし、先輩にはそれが

見えるだけではなく、

 

すぐにこの世の人ではないと

感じたそうです。

 

先輩は目が合わないように、

一生懸命運転しておりました。

 

先輩の車が老夫婦の前を

通り過ぎたその瞬間、

 

急に車がスピンし、

 

側壁ぎりぎりのところで

止まったそうです。

 

慌てて車から降りて

辺りを確認したところ、

 

道も濡れていないし、

滑る要因がまるでなかったと。

 

この時、

 

先輩は車から降りることが出来た

ことに気づきほっとしたのですが、

 

再び車に戻った時・・・

愕然としたそうです。

 

あの老夫婦が車の後部座席に乗っており、

こちらをずっと見ていたそうです。

 

気丈な先輩でも、

さすがにその場に倒れたそうです。

 

目が覚めた時、

なぜか先輩は車に乗っていました。

 

まだ夜は明けておらず、

空は真っ暗でした。

 

目が覚めてもハンドルだけは

見られなかったそうです。

 

・・・まだ彼がいます。

 

さらに、後部座席にも明らかに

老夫婦の気配があります。

 

先輩は元来た道を引き返し、

お地蔵様の所へ向かいました。

 

なぜそうしたのかは、

今でも分からないそうです。

 

やっと、お地蔵様の所へ

たどり着いた先輩は、

 

お地蔵様の前で土下座をして謝り、

 

お地蔵様の頭を丁寧かつ慎重に、

元の位置へ戻したそうです。

 

普通ならここで霊現象が終わると

思ったのですが、

 

霊現象はエスカレートする一方で、

 

痩せ細ってゆく先輩を見かねた

先輩の彼女が、

 

一緒にお祓いを受けたそうです。

 

お祓いは、

お地蔵様の所で行われました。

 

先輩が言うには、

 

お地蔵様の目がお祓いの間ずっと、

先輩の顔を見ていたそうです。

 

お祓いの最後に、

 

『ツギキタラ、ツレテイク』

 

と、図太い声で耳ではなく

頭の中に響いたそうです。

 

その後、

 

霊媒師は凄い剣幕で先輩を

叱ったそうです。

 

お祓いを受けるのがもう少し遅ければ、

車の事故で確実に殺されていただろうと。

 

さらに車の中には、

 

溢れんばかりの沢山の霊が乗っているから

供養しなさいとの事でした。

 

その後の先輩ですが、

 

あの峠周辺には全く近寄っていない

とのこと。

 

当然、あの車は廃車になりました。

 

(終)

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