長い間、誰も帰って来ない家 1/2
まだ小さかった頃の事なので、今では確認のしようのない話ですが、自分にとっては洒落にならない怖い体験でした。
これは僕が小学校2年生くらいの事なのですが、当時僕の親は共働きで、学校内にある託児所的なところに僕は預けられていました。
僕たちはその託児所を「学童」と呼んでいました。
普段は、しばらく学童でおやつを食べたり、宿題をやったり遊んだりして、夕方5時になると友達と一緒にそれぞれ家に帰ります。
しかしその日は、普段の遊びにも飽き、たまたま友達の少ない日だったので、拓也と哲夫と僕の3人で「学校を抜け出そう」という話になりました。
動物の死骸が腐ったような臭い・・・
抜け出して向かう先は、「キューピーハウス」と僕たちの間で呼ばれていた心霊スポットのような所です。
そこは石屋の隣にあり、長い間誰も帰って来ていない家でした。
その家にはガレージのような所があり、そのシャッターの部分には恐らく新聞や手紙などを入れるであろうポストがありました。
僕たちはそこから中を覗いたりしていたのですが、中は壊れた椅子や人形などが散乱していて、とても怖い雰囲気が漂っていました。
時間はお昼3時半。
僕たちは隣の石屋のおじいさんに見つからぬよう、こっそりと家の敷地に入り込み、花壇や塀をよじ登り、ベランダから2階へ上がりました。
普通なら窓の鍵は締めてあるはずですが、なぜか開いており、すんなりと中へ入ることが出来ました。
中はとても荒れていました。
もうこの時から拓也は怖がり、「帰ろうよ、先生に怒られるよ」などと言っていましたが、僕と哲夫はもう気分は冒険家で、ぐんぐん奥に進んで行きました。
僕たちは2階を全体的にぐるっと見て回りました。
部屋は3部屋。
一番最初に入った部屋は、どうやら女の人の部屋でした。
何となく綺麗で、可愛らしい犬の置物などが置いてありました。
次に見た部屋にはベビーベッドが置いてあり、赤ちゃん用の沢山のおもちゃが散乱していました。
ぱっと見た感じ、あのキューピーの人形が多かったような気がします。
おもちゃはボロボロで、なんだか訳の分からない黒ずんだ液体がこびり付いていました。
もう1つの部屋は、何も家具の置かれていない空き部屋でした。
そして次に、僕たちは1階に下りました。
リビングは洋風な感じの部屋で、立派なソファーが置かれていました。
この家には赤ちゃんが居たのでしょう。
赤ちゃん用の机や椅子、食器などが床に転がっていました。
僕は哲夫と大はしゃぎしていましたが、拓也は哲夫の服にしがみ付いたままでした。
書斎やトイレ、キッチン等を一通り見て回りましたが、特に変わったところは見当たらなく、「じゃあ、もうそろそろ学童に戻らないと怒られちゃうから、最後に風呂場を見てから玄関から帰ろう。続きはまた今度にしよう」ということになり、風呂場を見に行くことにしました。
脱衣所に入る前に哲夫が、「なにかあった時の為に玄関の鍵を開けておこうぜ」と言い出し、風呂場からすぐ近くの玄関の鍵を開けました。
外は暗くなり始めていました。
その家には時計が見当たりませんでした。
なので、僕たちは全く時間が分かりませんでした。
風呂場に入ると、酷く何かが腐ったような臭いがしました。
果物や野菜が腐った臭いではなく、動物の死骸が腐ったような臭いでした。
鼻が曲がりそうになるくらいの酷い臭いでしたが、怖いものを求めてきた僕と哲夫は、「もっと何か怖いことが起こればいい」、「学校で噂になればいい」、「最悪、誰かが死んでもいい」と考えていました。
拓也は、「もう怖いし臭いからここには居たくない」と言い、風呂場の外に居ました。
不思議なことに、一歩でも風呂場の外に出てしまえば全くの無臭だと拓也は言いました。
風呂桶にはフタがされていました。
白いプラスチック製のフタでしょうが、黒く変色しているというより、2階で見たおもちゃのように何かの液体がこびり付いていました。
哲夫と2人で開けようと持ち上げてみたのですが、とても重く、ビクともしません。
フタは2枚あり、どちらのフタも開きませんでした。
指をフタと浴槽の間に入れようとした時、僕の爪の間に何かが入ってきました。
「気持ち悪っ!」と指を見てみると、細く短い髪と長い髪の2本が中指の爪の間に入り込んでいました。
それを見た僕と哲夫は怖くなり、風呂場から出ることにしました。
当時、怖がるのは格好悪いと思っていた僕たちは、「もう飽きたし、全然怖くねぇから帰ろうぜ」と、怖くないフリをしていました。
しかし、開けてあった風呂場のドアは、いつの間にか閉まっていました。