古ぼけた旅館での恐怖体験

 

一年ほど前に体験した話。

 

ある日、

 

仕事で東北地方のA県に

出張することになった。

 

俺は早速、

旅館の予約を済ませ、

 

万全の状態でA県に赴いた。

 

ところが当日、

 

予約していた旅館へ行ったところ、

どういう手違いがあったのか、

 

俺の名前で予約は入っていないという。

 

その上に満員だということで、

仕方なく別の旅館を探すことにした。

 

幸い、

 

すぐに別の旅館を見つけたので、

そこに飛び込んだ。

 

部屋が空いているかと聞くと、

運良く一部屋だけ空いているという。

 

古ぼけた旅館だったが、

 

これ以上宿探しをするのは

億劫だと思ったので、

 

我慢することにした。

 

案内され部屋に入ったが、

その時は嫌な感じもしなかった。

 

その後夕食を食べ、

風呂に入ると、

 

長旅の疲れからか、

俺はぐっすりと眠ってしまった。

 

だが、夜中に突然、

目が覚めてしまった。

 

時計を見ると午前二時。

 

何でこんな時間に・・・

と思っていると、

 

廊下の方からだろうか、

微かに笑い声が聞こえてきた。

 

『アハハハハハハ・・・』

 

それは女の声のようだった。

 

この時点で俺はおかしい、

と思い始めた。

 

すると、

 

パタパタパタパタパタパタパタパタ・・・

 

今度は廊下を走る音が。

 

しかも、

一人や二人のものではない。

 

少なくとも十人くらいのその足音は、

廊下を行ったり来たりしているようで、

 

俺は少し怖くなった。

 

すると今度は足音に混じって、

あの笑い声が・・・

 

『アハハハハハハ・・・』

 

パタパタパタパタパタパタパタパタ・・・

 

『アハハハハハハ・・・』

 

パタパタパタパタパタパタパタパタ・・・

 

笑い声は足音と共に、

大きくなったり小さくなったり。

 

すっかり恐ろしくなり、

俺は早く朝が来るのを祈っていた。

 

だが、

 

足音と笑い声が廊下を

何往復かした時だった。

 

パタパタパタパタ・・・

 

笑い声が途絶えたかと思うと、

 

足音はなんと俺の部屋の

前で止まったのだ。

 

俺は冷や汗をかきながら、

布団の中で念仏を唱えていた。

 

しかしそれっきり、

足音と笑い声は聞こえず、

 

部屋の戸が開く様子もない。

 

少し安心したその時だった。

 

『アハハハハハハハハハハハハ!』

 

突然、耳元であの笑い声が

聞こえたのだ!

 

俺は焦って飛び起きたが、

 

この時、

 

起きなければ良かったと

今でも思う。

 

飛び起きた俺の目に

映った光景は、

 

俺の寝ている布団を囲む形で、

着物を着た女の人が・・・

 

十人以上の女の人たちが

俯いて座っていたのだ!

 

恐ろしさに動けずにいると、

 

着物の女の人たちは

一斉に顔を上げ、

 

笑い出した。

 

『アハハハハハハハハハハハハ!』

 

それは正に、

あの笑い声だった!

 

意識が遠のく寸前、

見てしまった。

 

その女の人たちの顔には、

口以外無かったのを。

 

次の日、

 

目を覚ました俺は

再び恐怖した。

 

なんと、畳や壁、

天井に至るまで、

 

血の手形足形が

びっしりと付いていたのだ!

 

急いで旅館の人に言ったが、

 

その人は「やはり・・・」

 

とでも言わんばかりの

顔をしていた。

 

どういうことなのか

聞き出そうとしたが、

 

その人は、

 

「申し訳ありません。

宿泊代は無料にしますので」

 

と言うばかりで、

 

結局何も聞き出せないまま、

その旅館を後にした。

 

あの旅館のことは今も謎だが、

もう二度とあんな経験はしたくない。

 

(終)

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5 Responses to “古ぼけた旅館での恐怖体験”

  1. 洒落怖、怪談好き名無し より:

    うわ〜めっちゃ怖い!こんな旅館二度と泊まりたくないわ

  2. へそ吉 より:

     これほどあからさまな怪異が起きて、しかも宿の人が、またですか、宿賃は只にします、と言うくらいですから、かなり前からこの怪異は起こっているはず。
     そんな旅館なら、口コミでうわさが広まって廃業に追い込まれるか、さもなくばお化け旅館として有名になっているはずでしょう。

  3. 速攻の炎術師 より:

    俺ならそのくらいの怪異平気だから、宿泊費がタダになるなら泊まるかな。

  4. tak より:

    面白そうだから泊まりたい。
    あちこちビデオカメラ設置して撮ってみたい。

  5. 示談の条件 より:

    古ぼけた旅館だったが、

    これ以上宿探しをするのは

    億劫だと思ったので、

    我慢することにした。

    案内され部屋に入ったが、

    その時は嫌な感じもしなかった。

    その後夕食を食べ、

    風呂に入ると、

    長旅の疲れからか、

    不幸にも黒塗りの高級車に
    追突してしまう

    後輩をかばいすべての
    責任を負った三浦に対し、

    車の主、暴力団員谷岡が言い渡した
    示談の条件とは…。

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