鳴らないはずのナースコール 2/2

観察用ベッドと隔離ベッドは、

先ほども言ったように近いとはいえ

少し離れているので、

 

各ベッドに一つずつ

ナースコールがあり、

 

鳴らすと『エリーゼのために』が

流れます。

 

意外と音が大きく、

救急全体で聞こえるので、

 

大体、看護師さんが誰か手を止めて、

ベッドの所に行ってくれます。

 

(しょうもない要件ばかり何回も言ってると、

何もしないこともあるみたいですが)

 

しかし、悲しいことに看護師よりも

研修医の方が立場が下で・・・

 

後は察してください。

 

というわけで、パッと板を見に行くと、

観察室のランプがチカチカ。

 

何も考えずにナースコールを取って、

「どうしましたか?」

と言った瞬間、

 

後ろから、別のドクターが

切ってしまいました。

 

(壁に付いてる固定電話

みたいになっています)

 

「え・・・」

 

「お前よく見ろ、隔離室だぞ」

 

「あっ・・・え、あのー、

酔っ払いが忍び込んでる、とか?」

 

「鍵は俺がかけた」

 

そう言ってポケットから

鍵を出す上級医。

 

「そして今も持ってる。

後は聞くな、考えるな。

こういうことも、たまにある」

 

そして鍵を戻してぼそっと、

 

「ただの故障だ、厭な偶然、

それだけだからな」

 

もうその後は、

怖くて仕方ありませんでした。

 

しかし自分がやらかして

しまったせいでしょうか、

 

その後もベルが鳴る鳴る・・・

 

ひっきりなしに『エリーゼのために』が、

ガンガン流れます。

 

その度に、面倒くさそうに受話器を

ガチャ切りする上級医。

 

しかし、ベルは酷くなる一方でした。

 

♪ミレミシレドラ~・・・、

のメロディーが流れるのですが、

 

途中くらいから、

こちらが切らなくても勝手に

途中で切れるのです。

 

ミレミシレド、ミレミシレド、

みたいな感じで。

 

最後は、ミレミシ、ミレミシ、ミレミレミレ・・・

みたいになってましたね。

 

明らかにこちらを急かしていました。

 

私と同じく、

入りたての看護師さんも

いたのですが、

 

彼女は完全に腰が抜けて、

泣きながら座り込んでいたし。

 

そして、

「おい!うっせーんだよ!!

さっさと行ってやれやゴルァ!!」 

と、空気の読めない酔っ払い共。

 

中にはオラオラ言いながら

隔離室のドアを蹴るDQNまでいて、

ちょっとしたカオスでした。

 

そんな中、

 

一人不機嫌オーラを立てていたのは、

師長さんでした。

 

とうとうしびれを切らした彼女は、

ツカツカと受話器の所に行って

さっと取ると一言、

 

「黙ってさっさと死ね!!!!」

 

救急中にしっかりと声が響き、

ぱたりと途絶えたナースコール。

 

理解したのかしないのか知りませんが、

空気をやっと読んでくれた酔っ払い達。

 

くるりと振り返った師長さんは、

それはそれは頼もしいとかじゃなくて、

純粋に恐ろしかったです。

 

「仕事しろ!」

 

その後は、馬車馬のように

働きましたとも。

 

酔っ払いはいつも居座ってしまって

帰すのに苦労するのですが、

 

皆様本当に理解が早かった。

 

腰を抜かしていた看護師さんは

その後、

 

「ICUで死ぬ間際の人が

氷をポリポリ食べていて、

その音が耳から離れない」

 

と言い残して辞めていきましたが、

 

師長さんいわく「軟弱者」、

だからだそうです。

 

女社会、子供を5人育て上げ、

なおかつ893やDQNのやって来る

救急外来をあえて選ぶ、そんな猛者。

 

今でも心底恐ろしいです。

 

後、心当たりがあっても、

この話はあまり広げないでくださいね。

 

特定されたら・・・

考えたくないですから。

 

<以下、後日談>

 

蘇生したか?ということを、

当時の自分もちょっと考えましたが、

 

やはり何度考えても、

答えはNOでした。

 

挿管こそしませんでしたが、

三次救急病院の蘇生メニューで、

 

全くのAsys.(心臓が完全に止まった状態)

でしたからね・・・

 

特に低体温などの特殊な状況

だったわけでもありませんし。

 

医学的常識を超えて蘇生してくるケースを

全く否定するわけではありませんが、

非常に考えにくいです。

 

ちなみに、隔離室は

かなり広めの個室です。

 

インフルエンザの時期、

5組のインフルエンザの子供と保護者を

収容出来る広さです。

 

その中央に、柵付きのベッドを

一台だけぽつんと置いた状態。

 

ナースコールは一台のみで、

壁に固定です。

 

生きている人を寝かせる時には、

延長ケーブルでボタンを持たせますが、

 

当然、当時は必要ないので、

ケーブルは収納していました。

 

鍵はあくまで外からの侵入を

防ぐためなので、

 

中からはつまみ一つで

簡単に開きます。

 

本当に生き返って、

柵を外して壁まで歩いてナースコールを

鳴らすぐらい元気だったら、

 

せめてカーテンを開けて、

助けを呼ぶくらいしてほしかったかなあ。

 

後、救急外来のナースコールは

電話と違い、

 

かけることは出来ても、

切ることは出来ません。

 

こっちから切らない限り、

再びかけ直すことは出来ないはず。

 

なので、もっとも科学的に説明がつくのは、

『故障』なんでしょうね。

 

なにはともあれ、自分には色々と

洒落にならなかったです。

 

(終)

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2 Responses to “鳴らないはずのナースコール 2/2”

  1. 匿名 より:

    これ結構人気のある?話ですね。
    文章の上手さもあってそう怖くは感じませんが興味深い話です

  2. 匿名 より:

    後日談の言い訳が酷い
    相当後ろめたい事があったんやろなあ

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