三途の川で待っていた愛犬

僕には四つ下の弟がいて、

彼はバイクで通勤してました。

 

ある日、弟が出勤途中に事故に遭い、

救急車で病院に担ぎ込まれました。

 

僕にも連絡があり

急いで駆けつけましたが、

 

弟は意識不明の状態でした。

 

「もしかしたらダメかもしれない・・・」

 

母は泣くばかり、僕も

どうしようもありませんでした。

 

その三日後、奇跡的に弟が

意識を取り戻しました。

 

頭を強く打っていたため、

しばらくボーッとしていましたが、

 

突然何かを思い出したように、

 

「りんは?

(二年前に既に亡くなった飼い犬)

 

「何言ってる?もう死んだだろが?」

 

「いや、さっきまで一緒だったんだ」

 

「打ち所が悪かったかな?」

 

「いや!違うんだ。

実はさっき会ったんだ・・・」

 

と話し始めました。

 

何でも事故に遭った後の

記憶というのが、

 

一人で何処かに歩いて行くという、

定番なものだったらしいのですが。

 

どんどん歩いて行くと、

以前飼っていた犬に会ったそうです。

 

『あれ!どうしたのお前、

迎えに来てくれたの?』

 

と弟が尋ねると、

 

大人しかったりんが

ウーッと唸ったそうです。

 

よく懐いていた犬だったので、

面食らった弟がなおも頭を

撫でようとすると、

 

今度は「さっさとあっちに行け!」

とでも言わんばかりに吠えたそうです。

 

仕方なく弟が来た道を引き返して、

気がついたら病院にいた、

 

という事です。

 

「人って、死んだら

誰かが迎えに来るって言うけど、

俺の場合追い返されちゃったよ」

 

と笑って言います。

 

だけど、りんを一番可愛がっていたのが

弟だったので、

 

本当に『まだ来るな』と言いたくて、

吠えたのかも知れません。

 

(終)

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